164 魔城へ
その164です。
「この辺でいいか。だいたい全貌が写ってるし、適度に離れてるだろうし」
液晶画面で見える画像は、一世紀以上も建築作業を続けている某教会堂を鋭角的かつ退廃的にしたような外見の建物が偉容を示している。
上空から世界中の悪意を吸い込んでいるという割には、大理石らしき柱や壁は異様な白さで汚れのひとつも許していない。
一部分だけ拡大すれば病院もかくやという病的な清潔さだが、建物全体を眺めると「魔城」以外の何物でもない、というちぐはぐな印象だ。
周囲に大小の島が点在しているのも確認できるが、それらも緑のほとんどない殺風景さが、魔王の支配している地域であると強調しているかのようだった。
ヴェリヨが画面を指先でスワイプすると、すぐ横に人工精霊が滞空している。
箱を開封したカウニッツが一応は操作しているのだけど、正式な契約ではない簡易的な接続をしているだけなので、泥酔時に似たかなりあやふやな感覚を強いられているとの話である。
両者ともにベターな位置を陣取れたのを確認し、いよいよ魔王サマが最終段階――自ら動く気になったらしい。
「カメラの位置はもう少し低くしておいた方がいいのだ。衝撃波で吹っ飛んで壊れました、では意味が無くなるのだ」
アッハイ、とヴェリヨとカウニッツはドローンの高度を地面スレスレまで下げる。というか接地させる。「衝撃波」なんて物騒な単語が混じっていたが、相手が相手なので納得せざるを得ない。
二人が指示に従ったのを確認すると、ルデルは高揚の笑みを浮かべた。
「では、我が座。そろそろ征くのだ」
「ゆくって――え? ええっ?」
少年が驚くのも無理はない。なんと、魔王サマが彼の頭の上から降りて、背中に回ってきたのだ。
背後から抱きかかえられているような(といっても子犬サイズなので、手足の長さが全然足りてないのだが)体勢になり、泰地は大きく動揺してしまう。
しかし次の瞬間、足の裏から地面の感触が喪失すると、「ああ、何が起こったかさっぱ分からんけど、やっぱ異常なことになったなぁ」と変な納得をしてしまった。