162 魔城へ
その162です。
「では、作戦を実行段階へ移行するのだ。ルデルたちが出撃したら、穴から出ないようにして待っているのだ」
魔王サマの説明に、ゲアハルトやバイラーが反論する。せめて魔城の入口までは、と。
だが、魔王サマは容赦なく却下する。その理由が、時間節約とゲアハルト達の安全確保のため、というのは正直驚きだ。もっと茶化した言い回しをすると思っていただけに。
「例のモノを、今のうちに予定の位置へ待機させておくのだ」
促されて、ヴェリヨとカウニッツがゴソゴソと動く。
巨漢が左手の親指の付け根辺りを押すと、その左手の甲がぱかりと開く。これだけでも十分にびっくりギミックなのだが、その中に入っていたのがスズメバチ――に似た巨大な虫だったので驚きも二倍だ。
一方、学者も持っていたカバンから小さな箱を取り出した。その中身は、コウモリのような羽の生えた小さな光球である。
これが両方とも遠隔操作可能なビデオカメラ、いわゆる空撮用のドローンだというのだが、説明されても泰地はにわかには信じられない。前者はその大きさや造形において、後者は「魔法で動かす」という前提の時点で。
もっとも、それはゲアリンデたちも同様である。ヴェリヨが出したのはどう見ても蜂以外の何物でもないし、魔素以外の力で動くなんて理解できない、と顔に書いてある。
人間たちの胸中をよそに、二体がふわりと飛んで魔城の方角へ向かっていく。
まばたきの間に消えていったドローンに、人間たちは「おおーっ」と思わず感嘆の声を漏らしてしまった。……完全に敵の本拠が目と鼻の先であることを忘れている。