161 魔城へ
その161です。
「ところで」
不意に魔王サマの視線を向けられたヴェリヨは、特に後ろ暗いことなどないのに「へいっ?」と動揺してしまう。
「ユキサトから預かったモノを見せるのだ」
「え? これは一応、魔王を何とかしてからって……まあ、いいか」
ゴネても無駄なのは分かりきっているので、巨漢はあっさりとボスから渡された封筒を取り出し、中身のメモリーカードを魔王サマへ渡す。
小指の爪ほどの大きさしかない小さな板の正体などゲアリンデたちには分からないし、説明されても理解できないだろう。
だから、ルデルが問題のカードをそのまま口の中に放り込んでも「ああ、そういうモノか」くらいにしか思わなかった。
しかし、使用方法を知っている二人は一瞬で顔を青くした。何してくれてんの、なんて声も出せず、ただただ口をパクパク開閉させるのみ。
まるでワインを舌で転がすかのようにもごもごと口を動かし、ふっとカードを吐き出す魔王サマ。もちろん、ヴェリヨの掌へ正確に戻ったカードには、水気など微塵も付着していない。
「なるほど。なかなか愉快な筋書なのだ。ルデルも喜んで道化を演じてやって演目を盛り上げてやるのだ」
微笑むその顔に、ヴェリヨやゲアハルトたちはもちろん、角度的に視認できない泰地ですら背筋が凍る。
ただ、泰地は同時に「あ、これ純粋に楽しむ気になってるな」とも感じていた。その「筋書き」とやらから、あり得ない飛躍をしてやろうと企んでいるに違いない。