160 魔城へ
その160です。
生暖かくも背筋が寒くなる風が肌を撫でていく中、硬くて凸凹で雑草だらけで大量の窪みに注意が必要という、最悪な足場のに苦しむこと一時間弱。とうとう泰地とカウニッツの両膝が爆笑を始めた。
「仕方ないのだ。この辺で一旦止まるのだ」
ルデルの言葉に従い、一同は念のため適当な穴の中に入る。
地形が地形だけに、一時間前後も経過した割には2キロも進めていないだろう。ゴールの目印である岬はまだ視界に入ってこないし、不吉な黒い渦も「さっきより少し大きく見えるかな?」程度の変化しかない。
まだ夕方までは時間があるが、暗くなる前には終わらせたい。こんな場所で夜を迎えるなど、普通に無理な相談である。
「ふむ……」
泰地の頭上で背伸びをして黒渦を眺める魔王サマに、自然と全員の視線が集中する。進むも退くも、全てはこの子犬のぬいぐるみのような外見の魔王サマの裁量なのだ。
なんとも言い難い無言の時間がしばらく流れた後、ようやくルデルは口を開いた。
「ところで、最後にもう一度確認するのだ」
刹那、シェビエツァ王国組の表情が緊張で引き締まる。いよいよ魔王対魔王の戦いが始まるのか、と。
「魔城を守っている魔法障壁とやらは、周囲をぐるっと囲む円柱状であると聞いてるが、間違いないのだ?」
「はっ、はい!」カウニッツが背筋を伸ばす。「魔城は、魔法や攻城用の投石機などを使っても破壊できない障壁で防護されています。もちろん、人間が入ることも叶いません。しかし、魔城の上空を鳥が横切っていくのは確認されていますし……」
「洗礼を受けて魔城に突入した勇者が、城の中に鳥が巣を作っていたのを見つけて緊張がほぐれた、という記録もあります」
ゲアハルトの話は、王国では有名な逸話なのだそうだ。
それはともかく、魔城は魔法によって強力な防壁が張られており、ヒトの力では何をもっても破ることは無理とされている。唯一、魔王復活とともに現れる勇者が大陸各地で神の試練を乗り越えて洗礼を(以下略)という話だ。
ひととおりの説明を聞き終わると、ルデルはにやりと自信に満ちた笑みを浮かべた。
「なるほど。では、予定どおりに作戦を決行するのだ」
いよいよ決戦が近くなってきた感じですね