159 魔城へ
その159です。
「それにしても、ここまで魔族や魔物に襲われなかったのは僥倖でしたな」
最後方を歩くバイラーが、慣れない足場に苦戦している泰地などを気遣うように声をかけた。
魔王復活が近いせいか、最近は人に仇成すモノたちが活発化している。街道を利用している隊商たちの目撃報告や、山や森などを定期的に警邏する騎士団や冒険者たちによる戦闘報告などが増加傾向にあるのだ。
セボルの街を真夜中に脱出したのも危険な行為だが、魔城に近いこの地で街道から外れて移動するのは相当に分が悪い賭けだった。確実に襲撃を受けるだろうと覚悟していたのは言うまでもない。
「いざとなったら、我らのうちの誰かを囮として進んでもらおうと考えていたのですが」
バイラーの発言に、ゲアハルトが眉を曇らせる。
いざとなったらそうせざるを得ないと予想していたのであろうけれど、やはり実際に口に出されると感情が顔に出てしまうのだろう。
「や、やっぱり」呼吸が乱れ始めているカウニッツが、まだ余裕があると見せかけたいのか横槍を入れる。「まだ昼間だから、活動が、鈍化しているのかも、しれれませんね。もっ、森の中を、突破したのでもありませんし」
「そのとおりだが……いや、あまりに順調すぎるからな」
心配性になったな、とバイラーが自嘲する。立場上そうならざるを得なくなったのだろうから仕方がない話だ。
その一方で、泰地の頭の上では「ふふん」と魔王サマが得意気に鼻を鳴らしている。
(まさか、モンスターの類を寄せ付けないようにしていたとか?)
バカな妄想だ、と切り捨てたい少年だったが、取り憑かれてから起こった数々の例を想起してみると、むしろ魔王サマの力があったからこそではないか――なんて気分にすらなってくる。
(あかん。あかんぞ、孕石泰地。確かに魔王サマはとんでもないが、過信し過ぎるのも危ないぞ。俺だけは、きっちり冷静に判断できるように努めないと)
必死に自分に言い聞かせる少年だが、当のルデルからすれば「無駄な努力なのだ」と呆れるだろう。
本日はここまでです。