157 魔城へ
その157です。
ぎこちない空気の中で朝食が終わり、一行は街道を急ピッチで進み始める。
本音を言えば街道を無視し盛りを突破してでも最短距離を直進したいところだが、ゲアリンデたちが乗る馬車が一緒とあってはできない相談だ。
結果、街道を多少外れる程度に留まらざるを得ないが、休憩を必要最低限に減らし、昼食も止めることで時間短縮を図る。もちろん、文句をたれる人間はいない。
ひたすら無言で走り続けた結果、(日の傾き加減から考慮して)午後三時過ぎくらいに目的地の入口と思われる場所に辿り着いた。
「これは……」
窓の外に視線を移したヴェリヨが、一言呟いた切り絶句してしまった。つられて泰地も目を向けると、そのまま風景に魅入られてしまう。
緑豊かな大地に無数の白い岩が所狭しと並び、奇妙なコントラストを形成している。この光景だけでもなかなか壮観なのだけど、問題はその先にあった。
晴れているはずの青空が、進行方向――魔王が住むという魔城へ近付くにつれどんどん黒く暗くなっていく。しかも、この暗雲はずっと遠方で、まるで巨大な竜巻のように一点に集約されているのだ。
「この黒い雲の発生源が、例の魔城ってことですか……?」
得体の知れない恐怖で喉が詰まりそうな泰地に、カウニッツが「いいえ」と否定する。
「魔城がこの暗雲を吐き出しているのではなくて、暗雲を吸い込んでいるんですよ」
吸い込んでる、とオウム返しする異世界人二人を前に、学者は得意そうに目をつぶって講釈を始めた。
「実はこの暗雲は、我々の心にある悪意なのですよ」
(またファンタジーな……って、魔王やら魔法やらがあるんだから当然か)
「魔王は戦いに敗れ魔城の奥深くに封印されると、封印を突破し復活するためのエネルギーを蓄え始めます」
「そのエネルギーが、俺たちの心の中にある悪意って話か」
「仰るとおりです。魔王は、世界中の人々からほんの少しずつ悪意を奪っています。一人からは砂粒程度の量でも、全世界から集めれば、あのとおり巨大な渦となって……」
「なぁるほどね。人がみな聖人君子にならないように、ちびちびと搾り取ってる訳だな」
ヴェリヨの呆れたような口調に、カウニッツは苦笑いしか返せなかった。