155 強行行軍
その155です。
「ここから岬までは、どのくらいなのだ?」
「おおよそで考えると、イツェローまでの約半日に加えて、そこから更に半日ほどになります。しかし、休憩を最低限に抑えて一気に進むのであれば、夕刻前後には到着できるかもしれません」
「ふむ……」
小さく呟いて考え込むルデルの、その大仰な帽子の脇からはみ出た耳がピコピコと動く。
その様子は、魔王というより完全に子犬だ。思わず指でつまみたくなってしまうが、ゲアハルトは無謀な性格ではない。
沈黙すること約十秒で、魔王サマは決断を宣告した。
「とりあえず、行けるところまで一気に進んで、日が傾く前に切り札で一気に終わらせるのだ」
「それなら、ここでその切り札とやらを使えばいいんじゃないんですか?」
泰地がここで口を挟んだ。散々匂わせていた「切り札」を、なおも出し惜しみする意味が分からないのは当然の話だ。これはゲアハルトも同意である。
対する魔王サマの返答は、以下のとおりだった。
「向こうの魔王とやらに察知されて、ヘタな策を弄されると面倒なのだ。必要以上に相手を見くびることは、愚行以外の何物でもないのだ。なにより、我が座の実質的な初陣ならば、失敗で終わるのは忍びないのだ」
どうやら魔王サマは本気でそう仰っておられる模様。人間二人は驚かざるを得ない。
……とはいえ、魔王サマが人間だった頃は、同僚や部下を非常に大切に思っており、自分の成果をホイホイ分配したと記録されているので、この程度は「当たり前当たり前ェ! 常識常識ィ!」なのかもしれないが。
(でも、気前よく分け与えたのって、上司から叱責されるほどのワーカーホリックぶりを誤魔化すためだったのも事実だからなぁ……)
少年の悩みは尽きることがない。