154 強行行軍
その154です。
「……っと」
近くで声がしたな、と泰地が頭を上げてみると、ゲアハルトが靴を脱いでいるところだった。
「なっ? えっ?」
「いえ、気持ちよさそうなので、私も」
泰地のすぐ横に座ったゲアハルトは、素足をせせらぎの中で泳がせる。……予想以上の冷たさに悲鳴が出そうになった。
まだ目を白黒させている少年に、ゲアハルトは勝利感めいたものを感じてしまう。まあ、少なくとも彼のネガティブオーラを止めさせることには成功したのだから、多少は許されてもいいだろう。
「ところで」相手の思考がリセットされたところを狙ってゲアハルトが切り出す。「今後の予定なのですが、予定どおりイツェローへ向かいますか? それとも――」
「一気にルラント岬とやらに向かうのだ。ワケの分からん事態が発生している以上、一番早く終わらせられる行動を優先させるのだ」
魔王サマの返答は、「やっぱり」と頷かせるものだった。見事にブレない。
王子の命を狙う、エックホーフとは別の勢力がいるかのうお性があるということは、王都でも何らかの事件が起ころうとしていると考えるのが現実的だ。国王やその周囲の安否も重要だが、エックホーフがこれに乗じて動くことも視野に入れねばならない。
要するに、魔王封印行脚なんぞで時間をグダグダと潰している余裕などないのだ。
(普通に考えたら、達成困難な魔王封印を後回しにするところなんだろうけど、この魔王サマなら逆を取るよね)
初対面から短い期間ながら、ゲアハルトにもルデルの思考ベクトルは把握できつつある。そして、なんとなく信頼できそうな気になってくるから不思議なものである。