153 強行行軍
その153です。
ここは向こうの意見も聞いておくべきだろう、とゲアハルトは振り返ってルデルと泰地を探す。
他の騎士たちは周辺を警戒していて、カウニッツとヴェリヨは朝食の準備をしているらしい。……本音を言えば、カウニッツに調理の心得があるのは意外だった。
予想以上の食欲をそそる香りに期待しつつ、さらに首を巡らすと――小川のほとりで座っている少年を見つけた。
よくよく見ると、彼は素足を川に浸して放心していた。そして、やはりと言うべきか陰気な空気を漂わせている。あの魔王サマを頭の上に戴いているとなれば、気を休める時間などないのは理解できるが……もう少し奮起してもらいたい、とゲアハルトは考える。
しかし、その一方で「ゲアリンデ」としては、ゆっくりのんびり休ませてあげたいと思ってしまっている。魔王サマ+異世界での仕事+決闘・襲撃・徹夜の強行軍なんて、ストレス具合が想像できない。
加えて、自分の秘密を知られているのもある。
魔王サマが鎮座している限りは他言の心配はないだろう。同年代+秘密をバラさない+身分差を気にしなくていい――なんて条件が揃っていると、情めいた何かが胸の奥から湧いてしまう。
そしてもう一つ、不安がある。あの暗殺者二人を、避けられない状況だったとはいえ命を奪ってしまった点だ。
事前の説明で、泰地たちが暮らしている「ニホン」では、どんな極悪人であろうと死をもって制裁するのは歓迎されておらず、生きて罪を償うことを是としているらしい。
更に困ったことに、ニホンでは神の存在が希薄化しているのだそうだ。どうやら、神への感謝などが日常化していて、大々的な儀式などは胡散臭いとされてしまう場合もあると……ゲアリンデとしては、どうやって毎日を過ごしているか想像不可能な話である。
(つまり、祭騎士という立場である私は、ニホンでのタブーをふたつ抱えている、と)
こう考えてしまうと、ゲアリンデは声をかけるのを躊躇ってしまう。と同時にゲアハルトとしては、明るく呼びかけて叱咤激励したい。
まさか自分がこんな悩みに陥るとは、と祭騎士は自嘲してしまった。