151 強行行軍
その151です。
(最悪だ……)
小川のほとりに着いた一同を、魔王サマは宣言どおり一列に並べてラジオ体操させた。
無論、ゲアハルト達が「ラジオ体操」なんて知る由もなく、なし崩しに泰地が指導役として先導する羽目に陥る。
まさか本気でやるとは考えてなかった上に、体操のおにいさん役をやらされるとは――この時点で、少年の心はズタズタにされていたのだが、話はこれで終わりではなかった。
なんとまあ、騎士たち――ゲアハルトまでもが「これはいい!」と大絶賛。
動作そのものは簡単で短時間で済ませられるが、全体を通すと意外と運動量が多く、リズムに乗って全身(特に各関節)を満遍なく動かすので、起き抜けや訓練前のウォームアップなどには最適だ、と。
バイラーなどは「お二方には、王都に帰還した際に是非とも騎士団全体での指導をしていただきたい!」と頼み込んでくる始末。冗談ならまだしも、本気なのがイヤでも見て取れるから始末が悪い。
凹む少年を尻目に、ゲアハルトとバイラーは何かを話し込んでいる。今後の予定などを相談しているのだろう。他の騎士たちは周囲を警戒していて、カウニッツは朝食の準備、ヴェリヨは――材料やら調理法やらにツッコミを入れていた。
「いい加減に現実を受け入れるのだ。日本のコトワザにもあるのだ。旅は憂いもの辛いもの、と」
「そこは旅は道連れ世は情けって言ってくださいよ……」
ルデルから励まされるなんて最初から期待してないので、ダメージはほぼ無い。でも、気分転換になったのも事実だったりする。
泰地は大きく深呼吸をしながら空を見上げた。
「…………?」
よく晴れた気持ちの良い青空のはずなのに、何か違和感があった。とはいえ、具体的な理由が浮かばない以上、質問も相談もできない。
頭上の魔王サマはどんな顔をしてるのか――と思いつつ、泰地はひとまず棚上げすることにした。