150 強行行軍
その150です。
徐々に空が白み始め、小鳥の鳴き声が風に運ばれてくる。どうやら無事に朝を迎えられそうだ。
先行偵察をさせた部下の報告を受けたバイラーは、ゲアハルトに休憩を申し出た。
「少し先に小川が流れているそうです。我々ははともかく、殿下や客人、そして馬たちも夜通しの強行軍で疲弊してないと言えば嘘になります。距離は充分に稼げましたので、二時間ほど休んでも、イツェローに向かうならば昼過ぎには到着できるでしょう」
ゲアハルトは、もちろん反対しなかった。一種の興奮状態であった身体が、安らかな睡眠を要求し始めている。
「緊張が抜けたら、ちょっと眠くなってきましたね」
軽い口調にしているが、目頭を押さえる泰地は疲労の色が濃い。これが初任務と聞いているので、むしろ頑張ったと言えるだろう。
そして、ゲアハルト――ゲアリンデも、本音では「今すぐにでも手足を伸ばして横になりたい」と叫びたい気分だった。あの襲撃は、うまく乗り切れたとはいえ刺激が強すぎた。
加えて、ほぼ無用の心配と頭で理解していても、やっぱり「もし追撃があったら」と考えてしまって気が休まらなかった点も大きい。静かで牧歌的な朝の訪れは、心身を緩ませるのに十分な破壊力を発揮してくれた。
街道を進むうちは適度に保たれていた精神の均衡も、いざ問題の小川が見えてくるとゆるゆると崩れてしまう。
とりあえず少しだけでも休憩できる――馬車の周囲を固める騎士たちですら、その瞬間を待ちわびる気持ちで逸ってしまうのを止めるのが精一杯だ。
だが、ここで魔王サマが宣言した。
「よし! では全員整列して、ラジオ体操を実施するのだ!」
大台ですね。