149 強行行軍
その149です。
「で、次の目的地は?」
「え? あ、イツェローという村に向かってます」
急に真面目な声になったヴェリヨに、カウニッツは慌てて答える。続けて、動揺を誤魔化すべく説明を始める。
即座に王都へ帰るという選択肢もあった。が、当面はあえて奇をてらう意味で予定どおりの道筋を進んでいる。夜が明けてから、改めて今後の方針を決める話となっていた。
イツェローは、名目上は「村」としているけれど、実際には魔城監視のために派遣されている騎士団が設営した駐屯地の一つである。
魔城監視任務は騎士の義務であり、当初の任務期間は五年くらいだった。ところが、時代の流れとともにどんどん短縮され、今現在は半年となっており、近々三ヶ月になるのではないかと噂されていたりするそうな。
魔城に最も近いルラント岬と先程まで滞在していたセボルの街とは、当然のようにかなりの距離がある。その中継地点として、イツェローをはじめ複数の駐屯地が設けられた。これは有事における迎撃任務も兼ねている。
最初はテントしかなかった土地に、やがて建物が並び、いつの間にやら畑が耕され、家族を呼んでそのまま住み着く者まで現れ……と、グダグダな展開の末に、「村」と呼んで差し支えのない規模の共同体に発展してしまった。
これにはヴェリヨも本気で呆れたようである。
「おいおいおいおい。魔王が攻めてきた場合は真っ先に戦場になるって場所なんだろ? のほほんと非戦闘員のいる村なんてカタチにしちまって大丈夫なのか?」
「仰るとおりですが」
答えるカウニッツの歯切れは悪く、手綱を握る騎士も苦笑いを浮かべるのみ。
というのも、魔王は何度も復活しているが、魔城から出撃した記録はない。残っている記録では、すべて人間が魔城へ乗り込んで魔王を封印している。
「つまり、本土に攻め込まれた実例がないから、任務が形骸化してるって訳か」
「……後ろにゲアハルト殿下がおりますので、なるべく小声でお願いします」
どんなに重要な事項でも、時間の経過で形骸化するのはよくある話ですね。