13
その13です。
先ほどまでのキラキラで可愛い(そして微妙に安っぽい)衣装とは正反対の、地味で露出度の低い(そして生地や縫製がしっかりしている)メイド服と掃除道具を持った少女の登壇は、まさしく白鳥の群れに紛れ込んだ黒鳥のようだった。
ところが、会場から去る者はない。むしろ、待ってましたと言わんばかりの歓声に湧く。
盛り上がる観客たちを前に、渦中のマエカケさんは――呆れるほどノーリアクション。手を振るでもなく、営業スマイルすらしない。
その徹底ぶりに感動する間もなく、どこかで聞いたことがある旋律が流れ始めた。
合わせてマエカケさんもするりと動き始める。といっても踊ったり歌ったりするのではなく、予想に違わずステージ上を掃除し始めた。
ごく普通に、本当に特別な動きなどなく真っ当に掃除し始めたのだが、場のボルテージが更に上がり始めるという異様な情景に、眺める泰地はどんどん表情が消えていく。
実に丁寧に、なおかつ手早く壇上をモップがけしたマエカケさんは、休む間もなく壇上から降りて、そのまま観客席の掃除へと移行した。
彼女の澱みない動きは、観客たちの協力による部分が大きい。まるで高速艇が水面を割いていくかの如
く、マエカケさんの進路を器用かつ迅速に明け渡していく。
常に短距離走をしているかのような勢いで掃除を終えたマエカケさんがそのまま舞台袖へ直帰してしまうのと同時に、流れていた音楽も終わる。
その見事なタイミングの一致に、人々は割れんばかりの拍手で彼女を讃えた。
「……あ、流れてた音楽ってゲームのラスボスの音楽でしたっけ?」
泰地は、こんなアホな感想しか出せなかった。
おネコ様は飽きるのが早い。