146 強行行軍
その146です。
眠気を覚ましてきます、とカウニッツが御者の隣に座ったのを確認して、魔王サマが珍しくゲアハルトに質問をぶつけた。
「正直なところ、二人をあっさり撃退できるとは思わなかったのだ。それに、あの手際は一般的な剣技とは明らかに違うのだ」
祭騎士とはそういうものなのか、と言外で尋ねる魔王サマに、ゲアハルトは困った笑みを浮かべつつ肯定する。
「祭騎士が祭事を司るというのは前にも説明しましたが、古い時代では……まあ、要するに生贄を神に捧げる役も担っていました。その際、確実かつ痛みを与えない方法というのを儀礼的に引き継いでいまして……」
ゲアハルトが倒した襲撃者の一人は、後ろから盆の窪――脊椎と脊髄を短剣で切断されていた。これならば、流血は最低限で済む(血は不浄なモノとされているのか?)し、対象は全身麻痺と呼吸困難で痛みを感じる前に死亡するだろう。
だが、問題はもう一人の死因だ。
少年ははっきりと確認してないのだが、魔王サマの見立てでは「心臓を超高温の何か――おそらくはレーザーで貫かれているのだ」らしい。……とても信じられない話である。
それは、とゲアハルトは途中で言い淀んでしまう。何故かと思ったが、祭騎士の視線は魔王サマと少年ではなく巨漢を端に捉えていた。
ヴェリヨはそれを察すると「カウニッツ、ちょっと質問があるんだがなぁ」と御者たちの方へを乗り出した。下半身は馬車の中だが、一応は「聞いてません」アピールである。
「すみません。私のことを報告するかは、ルデル様とタイジ様に委ねておきたいのです」
「ウム。ゲアハルトが不利となる行動はしないと誓うのだ」
そんな安請け合いしていいのか、と泰地は思ったが、当然のように口にできない。それよりも、「秘密」を知って以来、ゲアハルト――ゲアリンデが厄介な荷物をこっちに預けにかかってないか、と心配になってもいた。
「血」に関しては、人地域によって色々な解釈がありますね。