144 会議はタヌキの集会
その144です。
「まだ集合までには時間はありますが、私ははそろそろ戻ります。勉強させていただいて、ありがとうございました」
二人の手を握り、丁寧に頭を下げると、空き缶を持って水引は退室した。
静かに閉められた扉の向こうで、脱いだ上着を控えていた秘書に渡し、替わりに新しい上着を着直す若い代議士をを眺めながら、奥墨は煙を吐き出した。微妙な臭いだな、と雪郷はわずかに眉をひそめてしまう。
「分かっていると思っているが、雪郷。あの男を――」
「如才ないですな。どこぞのアンケートで次期総理に期待する人物のトップに挙げられるのも頷けますね。さすがはかの人物の息子と言うべきですか」
水引進歩の父親――水引宗治郎は、政界屈指の変人とも呼ばれた人物で、省庁改変を旗印にして当時の世相に上手く乗り、首相に登り詰めた。
その単刀直入な発言の数々は、変人と呼ばれる理由であったのと同時に政治に興味のない人にも理解しやすかったため、政界を引退し地盤を息子に譲って数年経過しているにもかかわらず復帰を望む声が出るほどである。
だがしかし、引退してからは、雑誌の取材を受けては自分が所属していた政党(つまり現与党)を批判して野党を擁護したり、テレビに出演しては現首相を政治手法や人格面まで罵倒してみせたり、果ては某知事選挙で野党推薦の候補を応援する始末。
保守派の一部から「恩知らずの風見鶏」などと呼ばれているのも致し方ない部分があるが、一番意味不明なのが「息子が所属している再建議会を蛇蝎のごとく嫌い、反対勢力の御輿となって活動している」点だ。
一般的な親子関係ならば「息子が怪しい政治団体に入ってる! このままでは息子の将来が絶望的だ! 父親である俺が助けなければ!」と憤っての行動だと推測できる。けれど、これは変人元総理とその息子の話である。なにも裏がないと考える方が難しい。
……二人は無言でタバコを燻らせていたが、奥墨の煙には言葉には乗せられない感情が含まれているような、などと雪郷は邪推してしまう。
(色々と溜め込んで後悔してるのかねぇ? トシのせいなのか、周囲がアレ過ぎて決壊したのか……俺のせいじゃないよね?)
おっさんフィーバー、やっと終了です。
次からは異世界組に視点が戻ります。