142 会議はタヌキの集会
その142です。
「失礼します。お二人とも、大変でしたね」
背後から声をかけられたが、奥墨も雪郷も驚きはしなかった。この機を逃さず接触してくるのは予想していたからだ。
「水引先生。先ほどはありがとうございます。お手を煩わせて申し訳ありませんでした」
「いやだなぁ、先生だなんて。奥墨警視長のような伝説の御仁に呼ばれる資格は、まだ僕にはありませんよ」
計算されたかのような爽やか笑顔で応じる青年――あの不毛な糾弾会場で休憩を提案した男である。
水引進歩という名前の彼は、再建議会のメンバーではあるが、今日は先輩議員の付き添いで出席しているだけで、本来ならば「壁の花」として傍観に甘んじているはずだ。
しかし、彼は平気で口を挟んでいるし、対する周囲はむしろ一目置いているかのように行動している。その理由は非常に単純で――
「あなたが雪郷警視正ですか。はじめまして。ご活躍は常々耳に入ってきてますよ」
嫌悪感を持たせない微笑みとともに、水引は雪郷の手を握ってくる。躊躇なく相手を誉めつつボディタッチをしてくるのは、さすがは政治家というべきだろう。
「私も水引先生とお会いできて光栄です。……ところで、先生はタバコを吸わないと聞いてますが、こんな場所に来て大丈夫なのですか?」
「ふふ、心配は無用ですよ。確かに、私は立場が立場なので喫煙は遠慮していますが、父がヘビースモーカーでしてね。慣れているというか、むしろ懐かしい気分になれるのです」
すらすらと言葉を紡いでくる。相手との距離、握っている手の力加減も絶妙だ。
(大したもんだ。遺伝なのか教育の賜物なのかは分からんが、元総理の地盤をそっくり引き継いだのは伊達じゃないな)