140 会議はタヌキの集会
その140です。
「……以上で説明したとおり、経過は順調と報告します」
円卓に居並ぶお歴々を前に、雪郷は普段と変わらぬ調子で説明を終えた。腹の中では「口でわざわざ説明させんで、勝手に資料読んでくれりゃいいのに」と毒づいていたが。
彼が舌を止めるのを待たず、高級な椅子に座っていた二十人ほどの「お偉いさん」方は、それぞれバラバラに喋り始める。船頭多くて――の見本だな、と雪郷の前に座る奥墨は瞑目して表情を消す。
「そもそも信用できるのかね? その魔王とやらが」
「最初の報告からどれだけ時間が経っていると思ってる?」
「このナントカ王国とやらにしても、まともに交渉が成立する相手か?」
「平凡としか形容のできないこの高校生に、魔王とやらを御せるとは思えんね」
「本当にこの魔王が、向こうの魔王を倒せるのか? 根拠は何だ」
「費用対効果を精査しているか疑問しかないデータだな」
「結果がまだ出てないのに報告とはな。我々も暇ではないのだがね?」
……実に馬鹿馬鹿しい。
並べられた嫌味のほぼ全てが自分たちに原因があることを、まるっとトボけている。
魔王サマの実戦投入が遅れたのも、報告が遅れたのも、途中経過を出さねばならないのも、それでいて魔王の安全性・有用性を見極める前に結果を求められるのも、全ては我先に指揮を取りたがるくせに責任を回避しようとする、この船頭たちのおかげなのだ。
無論、それを舌先に乗せる失態も、無意識に態度で匂わせるような愚行を示す雪郷ではない。この辺は、彼自身のそれなりに長い社会人経験に加え、尊敬すべき先輩である奥墨による薫陶も大きい。
「お前の右から左へ聞き流す能力は、むしろ政治家向きだと思うがな」
……奥墨によるこの熱く激しい励ましに、雪郷は何度助けられてきたことか。
おっさんフィーバーが止まりません。