137 大山鳴動
その137です。
「ユキサトもかなりの難物でしたが、やはり一番の問題は、連中の自信の源になっているブツですな」
この言葉に、エックホーフはもちろんエクヴィルツも少し身を乗り出す。まさかあの自称「魔王」とやらの存在だけが頼りの綱ではないと思っていたが、案の定「奥の手」を用意していたようだ。
逆に言えば、そのブツとやらがどのようなシロモノなのかによって、ニホンの脅威度が推し量れるというものである。エクヴィルツが興味津々となるのも自然な話だった。
「その口ぶりからすると、実際にその目で見たのだな? どのようなものであった?」
上司である侯爵からの当然至極な質問を受け、エスマルヒは――なぜか視線があらぬ方向へ泳いでしまう。
「いえ、実はその……見たには見ましたが、分からなかったんです」
この返答に、エックホーフは当惑してしまう。
自分が子飼いの騎士団(という名前の諜報機関兼実働部隊)のトップに据えたこの男は、それだけの能力を有していいると信頼している。上司からの命令を確実に遂行するし、たとえ失敗しても後に繋がる何らかの成果を得てくるのが常であった。
そんな男が、ある意味で一番重要な任務にお手上げ状態で戻ってくるとは――長い付き合いである副団長も信じ難いという表情を隠せない。
当人であるエスマルヒも、いつになく素直に戸惑いを吐き出した。
「アレ《・・》を何と表現したらいいのか分かりません。見たこともない形状でしたし、どうやって運用するのかも想像できません。ただ……」
「それを本当に兵器として運用できるのであれば、魔王への勝算も充分にある、ということか」
エックホーフの呟きに、エスマルヒは肯定も否定もしなかった。
なぜなら、エスマルヒが根拠としているのは、理性による推論ではなく本能から来る畏怖だったからであり、弁舌で相手に納得させられる自信が持てなかったからでもある。
切れ者と名高い彼にとっては屈辱的な記憶となった。