136 大山鳴動
その136です。
「では、改めて報告をしてもらおうか」グラスを置いたエックホーフは、部下に真剣な視線を向ける。「先に書簡を受けて目を通したが、その口で説明して欲しい」
「といっても、ほとんど最終確認だけでしたからね。土壇場で覆すようなバカな結果にはなりませんでしたよ」
そう前置きしたエスマルヒは、自分たちの要求と日本側の要求が、双方ともにほぼそのまま通ったことを接げる。
団長が淀みなく諳んじる内容に、エクヴィルツはポーカーフェイスを貫いていたが、胸の内ではとても穏やかではいられなかった。
(なんだ、この内容は? ニホンとやらは間抜けしかいない国なのか? こんなくだらない要求を飲ませる代わりに、厄介な――あのゲアハルト王子の件まで引き受けるだと?)
さぞかし交渉は楽だったろう、とエクヴィルツは団長の顔を窺ったが、どうも万事順調というわけでもなかったらしい。表情や口調にわずかな疲労が滲んでいるのは、長年の付き合いだから気付けるというものである。
もちろん、それはエックホーフも同様であった。
「なかなか神経を使ったらしいな。手強い相手だったのか?」
「ユキサトとか名乗った奴のタヌキっぷりが、もう……正直、組んで仕事をするのはアリですが、交渉相手にするのはなるべく避けたいですな」
それ、団長がいつも相手に言われていたセリフそのままですよ――喉元まで出かかった言葉を、副団長は難なく表へ出さず霧散させた。
本日はここまでです。