135 大山鳴動
その135です。
やっぱり城の執務室で切り出すべきだったか、とエクヴィルツは表情が渋くなるのを堪える。あそこならば、エックホーフももう少し真剣に話を聞いてくれた。
けれど、今の二人が話している場所は城の近くにあるエックホーフの私邸の一つだ。手塩にかけたリンクス騎士団の宿舎も兼ねたここでは、さすがのエックホーフも気を緩めてしまっている。
策謀の世界に身を置き、常時緊張を強いられている伯爵がリラックスしてくれる――というのは、騎士団の副団長としては仕事を誇るところである。。軽口でからかわれるのも、この上ない名誉と言えるだろう。
だからこそ、動きを封じられた現状が納得できない。
「伯爵様は、どうしてそこまで連中を評価しているのですか? 何か裏付けがあるのでしょうか?」
この問いに答えたのは、エックホーフの口ではなかった。
「俺が向こうの上役と交渉したからだよ」
「エスマルヒ団長……」
背後から声をかけたのは、リンクス騎士団の団長でありエックホーフ伯爵の第二の頭脳とも呼ばれるエスマルヒだった。
年の頃は四十前後で、特別な特徴のない平々凡々とした外見なのだが、その白髪交じりの頭の中身が最大の武器である。でなければ、リンクス騎士団で随一の武芸者であるエクヴィルツを差し置いて団長に就けるはずがない。
「ご苦労だったな、エスマルヒ。ニホンとやらはどんな感じだったか?」
「いや、やたらめッたら広い隧道みたいなところから一歩も出られませんでした。若いおねーちゃんの一人も用意しない、野暮な連中でしたよ」
新たなおっさんの登場です。