134 大山鳴動
その134です。
「率直に申し上げれば、不満はあります」
珍しくエクヴィルツがエックホーフに感情を吐露した。
直立不動の姿勢をしている部下から漏れ出てくる怒気を、エックホーフは果実酒を飲みながら受け流す。
「当初の予定どおりではないか。あのニホンの特使とやらがお前に勝った場合は、私は今回の国王の計画に対して賛成に回る。短期的には損害を被るだろうが、長期的には私の判断が正しかったと皆が頷かざるを得なくなる」
最初からその腹積もりだった――これにエクヴィルツが従っていたのは、自分の敗北はほぼ無いと確信していたからである。
彼の主人であるエックホーフ伯爵は深慮遠謀の人であり、武人であるエクヴィルツごときでは理解できない選択を選ぶ場合も多い。尊敬し、信頼してきたから疑いなく従ってきたし、それで見事な成功を常に獲得してきた。
だが、今回は微妙に勝手が違う。エクヴィルツをはじめとしたリンクス騎士団を完全に待機状態にさせているからである。
伯爵の手足として動いてきた自分たちが蚊帳の外とされた現状に、エクヴィルツは今までにない焦燥で身を焦がしていた。
「そもそも、あのニホンとやらの連中が、魔王とまともに対峙できるという保証がありません。人間相手なら勝てても、いざ魔王を前にして怖気づかない道理もないです」
「私は、リンクス騎士団ならば魔王に一矢報いることも可能と考えているがな」
「評価していただけるのは恐縮ですが、現実的には厳しいです」
「完全な否定をしないのはさすがだな」
「…………」
わずかに耳を赤くする部下を肴に、エックホーフはグラスを一気に呷った。
またおっさん達の会話劇が始まってしまいました。
申し訳ありません。