133 異世界を歩く
その133です。
結論から言えば、ゲアリンデことゲアハルトが部屋を出た頃には、襲撃事件はほぼ終局を迎えていた。
奇妙な角度で首を傾げながら壁にもたれている男や、胸や腹に大量の穴を開けられた死体、頭蓋骨を陥没させて床に横たわる男等々、闖入者にくれてやる情けは無用と言わんばかりの光景が広がっている。
そんな凄惨な現場の中で、ゲアハルトは白い煙を燻り続けている小さな球を発見した。いわゆる「沈黙の魔法」を封じ込めた代物なのは間違いない。一応は踏み潰したが、効果が消えるまではもう少し時間を要するだろう。
と、部屋の一つからバイラーが現れると、申し訳なさそうに頭を下げた。予想はできたが、とりあえずその部屋に入ってみる。
「ゲアハルト様、申し訳ありません。賊を二人ほど捕縛したのですが……」
「自害しましたか」
部屋の中央には手足を縛られ、さるぐつわをされて倒れている男が二人。おそらく、口の中に毒物を潜ませていたのか、死に至る禁呪をあらかじめ仕込んでいたのか。
「まあ、こんなナリをした連中から情報を得られるなんてハナから考えてなかったのだ」
まるで負け惜しみのように聞こえる魔王サマの言葉だが、確かに誰も期待してなかったのは事実だ。一人も大怪我をしなかったことを喜ぶ場面である。
「これって、例のエックホーフとかって人の差し金ですかね?」
泰地が死体から目を背けながら疑問を投げると、カウニッツが首を振った。
「多分、違うでしょう。エックホーフ伯は周到な人物です。この者たちの力量は、シェビエツァ王国の騎士で例えるならギリギリ平均程度。虎の子であるエクヴィルツ副団長を倒した相手に差し向けるレベルじゃありません。それに、襲撃そのものが杜撰過ぎる」
「となると……」
会話が途切れたのは、エックホーフが打てる選択肢の多さに考えが及んでしまったからであった。
次回から、別展開になります。