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132 異世界を歩く

 眼前の暗殺者が連撃を加速させる。さすがにゲアリンデもこのスピードには余裕がなくなったらしく、防御動作が徐々に単調になっていく。


 これならば「二の矢」は不要か――ふと湧いた邪念が、つけ入られる隙となった。


 牽制と本気が混生した中途半端な一撃をゲアリンデは見逃さず、短剣の鍔で受け止めると同時に手首をくるりと返し、勢いのまま上へ弾き飛ばす。


 唐突な反撃に反応できない襲撃者のがら空きになった胸に向かって左手をかざすと、彼女は小さく短い呪文を唱えた。


「ふぐっ」


 ビクッと震えた後、ゆっくりと倒れていく仲間の姿に、ゲアリンデの死角である背後に回り込んでいたもう一人の暗殺者は思わず思考が停止してしまう。


(今の呪文は『光』だったはず? なんで目くらまし程度で倒れるんだ?)



 無論、敵の空白時間を無為に見逃すゲアリンデではない。


 まるで背中に目があったかのような正確さで、敵の腹にめがけて回し蹴りを放つ。


 一瞬の虚を突かれた襲撃者が思わず前かがみになって咳き込んでしまう。まずい、とすぐに前転して逃れようと考えたが、既に「詰み」となっていた。




 盆の窪にそっと鋭く冷たい何かが触れたと思った刹那、襲撃者の意識はあっさりと蒸散されてしまった。




 床に倒れ伏した二人がピクリとも動かなくなったのを確認して、ようやくゲアリンデは安堵の溜息を吐き出した。


 なんとか頭で組み立てたとおりの動きができた。即席の出たとこ勝負だったとはいえ、敵が弱かった――いや、あの泰地とエクヴィルツの戦いを見ていたおかげで、冷静に状況を操れたと断言できる。


「だけど……」


 彼女の指先は細かく震え、喉の奥に酸味が広がり、目尻には涙が滲み始めている。


「みっともない姿は見せられない」



 決意を口にすると同時に、ゲアリンデは泰地が消えていった廊下へ向かった。


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