131 異世界を歩く
その131です。
「くっ!」
ゲアリンデは、襲撃者の断続的な攻撃をしのぎつつ、結果的に小剣がベターであったことに感謝していた。
というのも、襲撃者の武器はセスタス――拳に装着するタイプの小剣だったからである。普段の長剣では、この連続攻撃をさばくのは無理がある。
ここで、窓の外にいたもう一人も闖入してきた。
(二対一だと、長期戦は面倒になる)
タイジ様のことも考えると出し惜しみはしていられない――ゲアリンデは即決した。
魔術や魔法などと呼ばれている奇跡は、魔素を消費することで具現化させる。人は、空気中に漂っている魔素を取り込むか、自らの内から生み出された魔素を、体内に備わっている(と信じられている)「環腑」を通して魔法・魔術に変換する。
先に泰地との対決の際にエクヴィルツが説明したとおり、普通の人は環腑は基本的に身体能力の強化や火・水・風・土などの元素魔法などにしか変換できない。
ところが稀に――エクヴィルツのように、全く予想できない変換をしてしまう環腑の持ち主が現れることがある。これが「魔術」として、先の「魔法」とは別物と区別されているものだ。
さて、ゲアリンデの祖先がシェビエツァ王国の君主と認められたのは、当時の対魔王戦において他を寄せ付けぬ圧倒的な武勲を示したこともあるが、一般庶民とは決定的に違う「特別」を有していた事実も大きい。
初代国王となったかの英雄は、普通は一つしか持ち得ない環腑を二つ持っていたと語り継がれており、その血脈に繋がる者――つまりゲアリンデも、複数の環腑をその体内に宿していた。