130 異世界を歩く
その130です。
期せずして、二人は黙って周囲の気配を探る。部屋の――いや、宿屋全体から音が消えたかのような感覚だ。
「窓の外に二人張り付いたのだ」
ルデルが小さく呟く。部屋の窓は小さく、木戸を閉めて施錠もしてあるのだが、本気で襲撃する用意があるのなら大した障害とはならない。
「廊下にも何人か詰めてきてますね」
ゲアリンデは護身用らしい小剣を出す。こんなモノでは、己の身を守るので手一杯になってしまうのは間違いない。襲撃を懸念しながら、せめて剣だけでも持ってこなかった迂闊さに歯噛みしてしまう。
「捕縛などは他に任せて、撃退を優先するのだ」
我が身の安全ではなくて撃退かよ、と泰地は腹の中でツッコんだ。そういう意味では、この魔王サマは本当に心強い――と信じるしかない。
ほどなく、扉と窓の隙間の空気が揺らめくのが見えた。
その正体が毒ガスの類なのかは分からないが、魔王サマの反応は迅速だった。
泰地が意識するよりも早く、彼の手はテーブルの上に置いてあった文鎮らしきモノを窓に向かって投擲し、足は扉を文字どおり蹴り破る。
(音がしない?)
室内では鳴り響く破壊音が、室外では完全に消されている。おそらくは魔法の類だろう。
窓から黒い――まるで忍者のような服に身を包んだ男が乱入し、ゲアリンデが小剣で迎え撃つのが少年の視界の隅に映った。それに助け舟を出すのは、正面に待ち構える黒装束が許してはくれないのは確実だった。
フラグ回収開始です。