127 異世界を歩く
その127です。
なんとなく隣の部屋からネガティブなオーラが滲み出てくるような――ゲアハルト改めゲアリンデは、部屋の全ての施錠を終えた上に探査魔法で反応するモノがないことを確認して、やっとリラックスしてベッドに身体を投げ出した。
「ほんと、コレ意外と重いんだよねぇ」
自分の正体を完璧に偽装してくれる赤の宝玉だが、常に肌身離さず装備しなければならないので、億劫になることもしばしばである。しかも、自己主張が非常に激しい存在なので、他のアクセサリーが似合わなくなてしまうのも小さな不満だったりする。
「まあ、見た目が男になってるんだから、必要以上にオシャレするわけにもいかないんだけど」
王家の直系として生を受けた身ならば、「私」より「公」が優先されるのは納得している。今までもつつがなく過ごしてきたし、これからも変わりはないだろう。
だけど――――なぜか今日は胸の奥に何かが燻っていた。
周囲の目を気にしなくていい一人きりの時間。全てから解放されるほんの一時がゲアリンデの数少ない癒しであるはずなのに、今日に限って妙に落ち着けない。
ベッドに寝そべったり、部屋の中を歩き回ったり、椅子に座ったり等々、一分と同じ姿勢を続けるのが苦痛になっている感覚に、ゲアリンデは軽く混乱していた。
ふと気が抜けた瞬間、脳裏に浮かんでくるのはエクヴィルツに泰地が勝った瞬間の、ゆらりと立ち上がった場面――思わず「カッコいい……」と胸が高鳴ったあの情景。
いやいやいやいやいや、と彼女は頭を大きく振った。それはない、と何度も繰り返す。大事な任務の最中に、浮ついた気分なんてなっている場合じゃないし、あってはならない。下手をすれば死に直結しかねない。
だからといって、心臓を泡立たせる何かは一向に収まる気配がない。というか、それは彼女の理屈だとか理性だとかをゆっくりと、かつ着実に溶かし始めていた。
「あー……なんだか隣が変だし? 立場的にちょっと様子を窺わないといけないよね?」
誰かに言い訳するように呟くか否や、彼女は部屋から飛び出そうとして開かない扉に額をぶつけ、慌てて鍵を開けてノブを回すと同時に宝玉を忘れたことを思い出して方向転換をすると同時に滑って転んだ。
あまりの恥ずかしさに真っ赤になった彼女は、宝玉を乱暴に掴んでドアノブを――掴めず再び扉と衝突した。
青春ですな。