123 異世界を歩く
その123です。
貸切にしてあるという宿屋は、街の中心からは離れた場所に構えており、十人程度しか泊まれないこじんまりとした店だった。もちろん、目立ちたくはないゲアハルトたちの希望に沿った結果である。
「これだけの街なら、騎士団が駐屯してないのか?」
ヴェリヨの質問に、バイラーは「もちろんあります」と肯定する。しかし、その後をカウニッツが継いだ。
「セボルは、周辺国との交易路が集約して交差する都市です。外国人が比較的多いという意味では我々も紛れられる部分はありますが、同時にエックホーフ伯の手の者も同じように潜んでいる可能性を否定できません」
「先の門番たちの対応から考えると心配ないように思えますが、念には念を入れねばなりませんからな」
なるほどねぇ、とヴェリヨは頭を掻いた。
宿屋の主人などには、既に金を握らせていて自分の部屋から出ないように申し渡している。食事はあらかじめ用意させており、食べた後の食器は廊下に用意してある水を張った桶に入れ、日が明けて彼らが出発してから洗うように、としている。
やり過ぎと思える念の入れ方だが、エックホーフをはじめとした反対派に対してはそれだけの準備と注意が必要だと判断しているのだろう。
「正直な話、本当に恐ろしい相手が誰なのか分からなくなってきますね」
ゲアハルトの自嘲は、前に見た国王の疲れた表情に驚くほど似ていた。