120 異世界を歩く
その120です。
さすがに馬車は、王家が用意したとあって豪華な代物だった。
パッと見た目は質素に擬態されているが、座席はそれなりのクッションが使われている上に、この世界では技術の先端であろう簡素なショックアブソーバーなども密かに装備されており、破格の快適な旅を保証してくれることだろう。
「まさかオート三輪の方がマシだって思う日が来るとは思いませんでしたよ」
「そーかぁ? 持ち主の俺が言うのもなんだが、大した違いはないと思うぜ」
「え? 駄目なんですか? 僕なんて、王家御用達の馬車に乗ること自体、恐れ多くて汗が止まらないんですけど」
ヴェリヨと泰地の対面に座るカウニッツが、縮こまっている身体をさらに小さくしようと努力している。ゲアハルトが「遠慮はしなくていいから」と何度も伝えているが、やはり無理な注文だ。
馬車には十分なスペース――八人は乗れるだろうが、「王家の備品に荷物など載せられない!」と日用品などは周囲を固める騎士たちの馬にくくられている。
だったら、いかにも下級役人なカウニッツが馬車に乗れないだろう。
実際、カウニッツも出発前までは「乗馬は得意じゃないんですけど、四の五の言ってられませんね」と諦めムードだったのだが、「途中でケガされても困るから」とゲアハルトが同乗を許可したのである。
泰地は臀部の鈍い痛みに辟易しつつ窓の外を眺める。予想よりもゆっくりだ。早歩きよりは早いと思うけれど、せいぜい時速8キロ前後だろうか。
(それで考えると、今日は夕方まで、明日と明後日は十時間くらい移動するとして……例の岬までは二百キロくらい?)
魔王の本拠地から二百キロというのは、妥当なのか近過ぎるのか?
必要以上にのどかな感じになってます。