117 異世界を歩く
その117です。
ざざっとゲアリンデはその場に膝をつくと、床を舐めんばかりに頭を下げる。
「こちらの事情があったとはいえ、騙していた事実には申し開きはできません。この場で私を断じるとしても、こちらの非であります。しかし、どうか、どうか魔王討伐は――」
「いやっ、ちょっと、ちょっと待ってください」
泰地は、自分と相手が互いの国の代表であるという事実を思い知った。ルデルやヴェリヨの軽口のせいで忘れかけていたが、今回は「魔王討伐」という国家からの命令で動いているのだ。物見遊山のついでに騎士と一戦交えたのではない。
特使として紹介された人物が身分詐称していた、などというのは外交上致命的な問題となるのは、平凡な高校生である泰地でも想像できる。やろうと思えば、かなり無茶な難癖も可能となる失態だろう。
そして問題は、泰地自身は気にしていないのだが、ルデルがどう感じているかである点だ。これはまったく予想できない。
(あれ? つか、これってヴェリヨに報告するべき話じゃないか? そんで、ボスへ丸投げって形にしとけば――)
「問題ないのだ。ルデルがさっさと終わらせる仕事なのだし、別に女性だから仕事に支障が出るという話でもないのだ」
「……なんか、アレコレ悩むのがアホらしくなってきました」
不貞腐れる泰地に、ゲアリンデは思わず笑みを漏らしてしまった。