115 異世界を歩く
その115です。
本気で気まずい時間が流れることしばし。沈黙を破ったのは、ゲアハルトの絞り出すような苦しくもか細い声だった。
「…………どうして、分かってしまったんですか?」
「へ? いや、そのままじゃないですか。男装してるならまだしも、女の子のままの見た目だし」
「え?」
互いに何かがズレている。どうも前提条件に巨大な溝がある模様。
と、ここでようやく魔王サマが口を開いた。
「……ああ! うっかりしてたのだ。視界の感応力を大幅に上げていたのをコロッと忘れていたのだ」
言われて泰地も思い出した。例の廃ビルでの「研修」の時に、凡人には見えない悪霊を視認するためにやられたっけ、と。
(あれ? そうすると、今までも幽霊とかが見えていたのか? そんなことはなかったはずだよな……)
そう考えると結論は――と口を開こうとした泰地だが、魔王サマが機先を制した。
「ちなみに、強化をしていない状態ならば、こう見えていたのだ」
瞬間、頭だけを炭酸水へ放り込まれたかのような異様な感覚が訪れたかと思うと、眼前の少女が絶世のイケメン騎士に早変わりしていて「ぅやっ」と変な悲鳴をあげてしまう。これは恥ずかしい。
しかし、これで泰地は完全に理解できた。
どこから始まったのかは分からない(先の言葉をそっくり信じる気にはなれない)が、こうなることを完全に見越した上での仕込みだったのだな、と。
本日はここまでです。