114 異世界を歩く
その114です。
「……なっ、ななな、な、なん、なに、なななななに」
ゲアハルトの長くはない人生で、これほどパニックになった経験はない。まして、頭が真っ白になって呂律が回らなくなるなんて初めてである。
何故ばれたのか、いやどう誤魔化すか、違う真っ先に否定するべきだ、いやいや無駄な足掻きだろう、ちがうどこからバレたのかをはっきりしなければ、いやいやいやあっちの筋肉の人にも気付かれてるのか――
オーバーフロー状態のゲアハルトを前に、泰地は顔を両手で覆った。
こうなると予想するのは容易だったのに、どうしても尋ねずにはいられなかった。後悔先に立たず、なんてよく聞く言葉だがまっこと真理である。
泰地が好奇心のまま進んでしまったのは、彼からすれば不可抗力だった。
なにせ、一応は甲冑を着込んでいるものの、顔立ちは自分と同年代の少女――というか、日本人とは別種の美形だし、髪形も男に寄せようという努力が感じられないし、近付けば柑橘系の淡い香りが鼻を爽やかにくすぐるしで、男だと思い込む方が拷問と呼ぶべき状態だったのだ。
ところが、部下であろうバイラーやカウニッツはもちろん、ヴェリヨですら普通にゲアハルトを男として接しているのを受けて「ここではそういうルールで回っているのか?」と無理に納得せざるを得なかった。
自分に言い聞かせてはいたものの、やはり何度見ても少女にしか見えないし、さっきの手を握られた時などは本気でヤバかった。恋人いない歴=年齢の少年には、この手の接触は一目惚れに発展させる破壊力を有する。
(クッソ、雪郷のおっさんめ。こういうことは最初に伝えておけよ! 心の準備ができてなかったから、結果はご覧の有様だよ!)
ヒロインの男装が主人公以外にはバレバレというのは定番なので、
逆パターンがやりたかったのです(アホ)。