113 異世界を歩く
その113です。
一方、泰地たちはと言えば。微妙に気まずい雰囲気のただなかにあった。
「どうしたんですか、タイジさん? 二人きりで話なんて」
距離を少し開けつつ話しかけるゲアハルトだが、相手は何かを躊躇しているかのように落ち着かない。その頭に戴いている魔王サマも「我関せず」とばかりに、すまし顔で黙っている。
(エクヴィルツに勝った瞬間は堂々としてたように見えたけど、戦っている時以外は自分に自信が持てない性格なのかな?)
無理矢理に会話の継続を試みるよりは、自然に心が解れるのを待った方が良い――のは当然の話なのだけど、時間は有限なので悠長にしていられないのも事実だ。エックホーフが引っ込んでくれるなら、変心をしないうちに逸早く出発したい。
とりあえずは、とゲアハルトはテーブルの上に置かれているベルに手を伸ばす。
「メイドに何か運ばせましょう。先程のお茶でよろしいですか?」
「あ、いえ、呼ばないでください」
泰地が慌てて止めてきた。しかも、制止すべく踏み出そうとしたのを思い止まった動作だ。どうも、泰地も微妙に間合いを開けておきたいらしい。
わけが分からず戸惑うゲアハルトに、とうとう泰地は意を決したように正面からその目を見据えた。
「ゲアハルトさん。失礼な質問になりますけど、いいですか?」
「えっ? あ、はい、私が答えられる範囲なら」
許可が取れたところで、少年は大きく深呼吸をした。よほどの覚悟が必要なのか、と祭騎士も無意識に身が強張る。
「すみません。この城っていうか、この国にいる間は、あなたが男のふりしてるのを関知してないように振る舞うっていうのが暗黙の了解になってるんですか?」
ぶっちゃけ、この展開がやりたくて書き始めた部分もあります。