112 異世界を歩く
その112です。
ゲスな話はここまでにして、とヴェリヨは思考を切り替える。
彼は上着の胸ポケットに押し込んでいた例の封筒を取り出す。どのタイミングで中身を確認しようかと考えていたが、一人きりになれた今がベターな選択だろう。
(まあ、監視されてるのは間違いないだろうが)
ヴェリヨの体内に装備されている各種センサーに引っかかるモノはない。しかし、その自慢のセンサーが「魔法」「魔術」「魔力」とやらに対応してるとは、残念ながら思えない。
あのエックホーフが手をこまねいているとは考えづらいし、国王側も異世界人に対する不信・不安は拭いきれないと考えるのが自然だ。
封筒の中身は……小指の爪の大きさ程の、いわゆるメモリーカードだった。
「なるほどね。これなら盗み見られる心配はないか」
何らかの指示があったのは確実だが詳細は不明、というのは牽制としてそれなりに有効だろう。少なくとも、問答無用で殺される確率は下がるはず。
ヴェリヨは右耳の後ろに指で押して挿入口を――
「あ、この規格はこっちのスロットじゃないか。どれだっけ? 確かこの前、こっちの規格に合うやつを追加したはずだったよな」
両手を展開させたり、左の腿を開いてみたり、首の一部を引き出してみたり……もし監視者がいたのなら、すぐさま卒倒しかねない光景である。