110 異世界を歩く
その110です。
どんよりとした表情で戻ってきた泰地に、ゲアハルトは「だっ、大丈夫ですか?」と駆け寄ったが、さっきの件もあって途中で止まってしまう。
事の発端は、最初に通された会議室へ戻り、カウニッツが「目的地までは、馬車で四日ほどを要します」と伝えたところからだ。
これに少年は大きく動揺した。「四日はあり得ない」と何度も繰り返したところで、ヴェリヨに別室へ連れ去られ――現在の有様である。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。納得できない感が強いですけど、俺が反対しても無駄ってのは分かったので……」
微妙な距離感で話しかけるゲアハルトに、泰地は力なく笑った。
不安しか残らないが、話は進めなければならない。異世界の二人が着席したのを見計らって、カウニッツが説明の続きを始める。
「えー、先ほど申しましたように、魔城に最も近いルラント岬までは、馬車でおおよそ四日ほどかかります。道中に関しては、まだ魔王が完全復活していないので魔物の類との遭遇はほぼ無いでしょう。野生の獣は出るでしょうが、夜は街や村で宿泊しますから、これも問題ないと思われます。懸念があるとすれば――」
「リンクス騎士団だな」
図らずもヴェリヨとバイラーの言葉が被ってしまった。しかし、これはこの場の全員の共通見解だったのも事実である。
約束だったとはいえ、試合後に大人しくさっさと引き上げたのは、どう考えても二の矢三の矢を考えての行動であるのは間違いない。そんなに物分かりが良いなら、エックホーフは宮中伯の頂点には立てなかっただろう。
特に問題となりそうなのが、策謀が得意というリンクス騎士団団長の存在だ。搦め手で攻められると、この面子では対処が厳しい印象が強い。
「ボスがなんか手を打ってくれてることを期待するのみだな」
ヴェリヨの呟きに、泰地は「俺、あっさり死ぬんじゃないか?」と絶望を新たにした。