109 帰宅までが宴会です
その109です。
「なんだ、ありゃあ……」
二階から恐る恐る下を覗いている長谷野たちでも、玄関付近に立っている野久保の異常さは伝わっている。
冷静な何人かが警察へ通報しようとするが――
「お、おい。携帯が圏外になってるぞ」
「長谷野、お前のはどうなんだよ?」
「え? あ、俺のも圏外になってる?」
おかしい――長谷野は、親睦会が始まった直後に「始まったぞー。そっちもバイト頑張れよ」と哀れな泰地にメールを送ったのだ。それから一時間も経過してないのに通信圏外になるなんて、まずありえない。
他の面子も同様で、口々に「ぜんぜん繋がらない!」「吐きそう……なんだよ、これ……」と騒ぎ始めている。
そんな喧騒とは別に、いろはは野久保からのプレッシャーがどんどん膨張し続けていることに恐怖を覚えていた。
彼女は、国内ではあらゆる大会に出場してきたし、少ないながらも海外での試合経験もある。だが、野久保から発散されている脅威の圧力は、それらとは完全に別種だった。とても人間を相手にしているとは思えない。
ぐらり、と風景の歪みがより強くなる。何も起こっていないはずなのに、乗り物酔いにかかったかのようにへたり込む者が出てきた。
(あかん。なんか意識が途切れそうだ)
酔いの影響なのか、長谷野は意識が朦朧とし始めた。こんな状況で倒れるなんて無謀以外の何物でもないのは分かっているが、他にも何人かが床に突っ伏しているのが確認できる。
もう限界だ――長谷野が意識が全て零れ落ちる寸前、いろはの叫び声が大きく響いていた気がした。
次回からは、また舞台は異世界に戻ります。