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その9です。
四面楚歌というべきか、前門後門のナントカというべきか。
眼前の雪郷と背後に座っているヴェリヨ、そして頭上のルデル。この三人が揃って同じような表情を浮かべているのは確認する必要もないだろう。
確かに、泰地は公安の捜査官となることを(渋々ながら)自分の意思で決断した。だが、追加で芸能人になるつもりなど毛頭ない。
ここで「やった! 俺がテレビに出れる!」とか「アイドルとか女優とかに会えるのか?」などと幸せ回路が発動できれば良かったのだが。
脳と舌が機関停止している少年に対し、狡猾な大人は外堀を埋めにかかる。
「そりゃそうよ。まさか自分は公安でござい、なんて自己紹介するつもりだったんじゃないだろ? まして君はまだ学生かつ未成年。それがバレたら警察組織そのものが大打撃を受ける話なんだし」
仰るとおりだ。
いくら脅迫気味だったとはいえ、自らの自由と安全確保を交換条件に公安へ身を寄せたのだ。事実の発覚で反故にされてしまったら、監視・研究対象以外の未来はほぼ閉ざされてしまう。
だからといって芸能界入りを直結されるのは承服しかねる、と態度に出てしまう少年だが、雪郷は動じる気配を見せない。
「ここは、建前は芸能事務所なんだから、君もタレント候補生としていた方が色々と説明は楽だろ。幸い、ルデル様の座なんて、この世に二人といない身分なんだし」
結局は魔王サマ目当てなのね――少年は盛大に溜息を吐いた。
次回でようやく女性キャラが登場します。
とはいえ、読者のニーズが読めない作者ですので…………
第0話から数えて40編以上もおっさん天国状態だったのは、
本当に作者の不覚です。
展開の遅さも含めて、猛烈に反省してます。