101 汚れた部屋へ
その101です。
ところで、とエレベーターから降りた奥墨の言葉に、雪郷はその続きを予測して答える。
「うちの魔王サマですか? 問題ないですよ」
「私も心配はしていない。アレは新しい――現代の伝承《WEB》から生まれた存在だ。大昔のそれとは性質が違う。ただなぁ……」
こめかみを押さえる上司に、雪郷は同情するしかなかった。
並列首都計画が進めている現在においてわざわざ直接顔を出せと命令したり、インターネット界隈から出現した(と推測される)魔王という存在を未だ認めようとしないあたり、本当に「上」の頑迷ぶりには呆れてしまう。
計画が年単位でずるずると延期されているのは、承認をする立場の人間たちが、計画を理解し利用しようとする努力をしていないからなのは明白だ。その意味では、計画だけぶち上げてさっさと引退した当時の首相が恨めしくなるのも道理だろう。
「俺だって必要があったから無理矢理覚えたのに、覚える気ゼロで命令されてるのは釈然としませんな」
「言うな。……ネクタイをちゃんと締めろ。ここからは監視カメラの解像度が高くなる」
さすがだな、と感心しつつ雪郷は忠告に従った。機械や技術のことがさっぱり分からなくても性能だけは最高を求める、というのもよくある話だ――と思いつつ。
本日はここまでです。
そして、おっさんフィーバーも打ち止めです。
次回から新展開となります。