99 汚れた部屋へ
その99です。
二人が閉めていった扉を、大陽寺はしばらく睨み続けた。
奥墨は、キャリア組としては理想的な道を歩いているのは間違いない。将来は、警察に残るなら警視総監、政界に進んでも所属する党の幹部にまで上り詰めるだろう。
だがしかし、その経歴には「私立中野予備校出身者であり、同サークルが再建議会に参加した際の中心人物」という一文が記されている。
大陽寺が日本最高学府と呼ばれる大学を現役で入学し、主席とまではいかなくとも好成績で卒業し、官僚や一流企業ではなく警察を選んだのは、ある野望が彼の胸を焦がしているからに他ならない。
「……くそっ」
野望実現の道を最短かつ着実に駆けてきた自負はあった。同世代で比べれば、自分が先頭を維持している自信もある。
ただ、「再建議会のコネがない」――学校じゃ教えてくれなかったのだから仕方がない。
大陽寺だって潔白にこだわる子供ではないので、上司や関係先の人間との接待は欠かさないし、気の進まない仕事も人としての尊厳を捨てるような真似も行ってきた。だからこそ今の地位を確保できているのだ。
けれど、最後の一押しが足りない。そんな気がしてならない。でなければ……
「くそっ」
彼は舌打ちしながらテーブルの上の雑誌を掴むと、激情のままに両手で捻じり上げる。
「いい気になるなよ。必ず尻尾を掴んで引きずり下ろしてやる……」