最弱の育て方
「おぅふ…」
「おいおい…何で変な顔してるんだ?」
「…カルマは、今のままじゃ弱すぎる。このままだと生きていけぬ」
「…基準が分からないけど…すげー弱いのは分かった」
今いる【混沌の山】の魔物達の平均レベルは72〜90。生まれたてのカルマには無理だ。
「…仕方ない。弱い魔物が多いところに行くかのう」
「ふむ。めんどくさいな…」
カルマを背中に乗せて遠くにある【原初の草原】へと向かう。
「うぉぉぉぉぉ!!速ええええ!!!」
背中で必死になってカルマがしがみついている。鱗で挟んでいるから余程の事がない場合落ちる事は無いのだが…。まあ、何事も体験だ。
30分ほど高速飛行をし、【混沌の山】から南東へ300kmほど。【原初の草原】に降り立った。
「んー…到着!」
カルマが大きく体を伸ばし(潰れた雫が少し細長くなっただけにしか見えないが)、あたりを見渡す。
視界一面に草原が広がり、所々に魔物達がいるが見えた。
「さて、その辺のぶっとばせばレベルが上がるんだろ?早速行ってくるぜ!」
「あ、馬鹿たれ。カルマ、お主は最弱という事を忘れるで無い」
制止も聞かず草原に入っていく。小さくて見えづらいため、中々見つけられない。
「死んだら蘇生するのには多大な労力がかかるというのに…」
もちろん死なせる気は無いが、このままだと危ない。早く見つけなければと焦る。
「うぎゃー!バル爺!助けてくれ!」
「そっちか」
悲鳴の上がった所へ赴くとカルマが3匹のゴブリンに囲まれていた。
「「「…ギィーー!!」」」
近くに降りた瞬間、ゴブリン達が騒ぐ。
「…ふんっ!」
翼を少し動かし、ゴブリン達に向かって小さな風を飛ばす。スキルですらない、ただの風。しかしそれを繰り出したのは世界最強クラスの龍。威力は…言わずもがな。
「「「ギィー…ギ…」」」
一瞬で三匹の命を奪ってしまった。
「…」
やってしまった。隣にいるカルマが動いていない。多分ドン引きしてる…。
親子関係の契約って解除簡単らしいから…今日からまた1人かな。短かったなぁ…。
「す…」
す?「す」から始まるマイナスな言葉を考える。恐れ戦いて我の元から去って行く。そう思っていた。
「す…すげえええええ!!強えーんだな!バル爺!俺にも教えてくれよ!」
「ぬ!?…怖がらないのか?」
「…怖くないよ。だって助けてくれたんだろ?」
そう、目を輝かせて言い張る。相当な胆力の持ち主か余程のアホかのどちらかだが…判別がつかないな。
だが今回はそれに救われた。
「嬉しい事を言ってくれるのう」
「教えてくれよ!俺は強くなりたいんだよ!」
家族になってから図々しくなったな。可愛げがない。
「しょうがない。ちゃんと教えてやる。だから、勝手な行動を取るなよ」
「おう!」
返事はいいんだがなぁ…。
「いいか、まず戦闘の基礎知識から教えるぞ」
「おうっ!よろしくバル爺!」
「教えを我から受ける時は先生と呼べ」
「押忍!先生!」
ちょっとだけだが人間達の世界で言う先生とやらになった気分だ。人に物を教える機会など無かったから新鮮だ。
「まず、この世界の戦いでは基本的に戦闘に参加したと神が認めねば経験値は入らん。だから先程のゴブリンの時はレベルが変わらなかったろう」
「はいっ!先生、質問です!」
「うむ。発言を許可する」
「俺が今のステータスで挑んだら負けるのが目に見えてるんですが、どうすればいいですか!」
「ふむ。その点は問題ない。カルマ、お前は確か【四次元の胃】持っていたはずじゃ」
【四次元の胃】とは、胃の中に拡張空間を作れるスキルだ。これは常に作動している。そして取り込めない物はおそらくほとんど無い。魔法や火などの現象の類は…どうなのかは分からんな。検証せねばなるまい。
「【四次元の胃】に水を大量に含んでおいて、勢いよく噴射すれば、おそらく【水鉄砲】というスキルを手に入れられるはずじゃ」
「試してみます!」
近くの川に行き、大量に水を飲み込ませる。攻撃したと見なされれば我が倒しても問題ないだろう。
「出来ました!」
「ふむ。では行くとするか」
そう意気揚々と、モンスターを探しに行くのであった。そして、我は最強の存在であるが故に失念していたのだ。いや、と言うよりも知らなかったと言うべきか。
「…魔物が一匹もおらん」
絶対に敵わない、しかも話し合いが通じそうもない最強の存在が近くにいるのに隠れないバカはいない。
そんな当たり前の考えですら我の頭には無かった。逃げた経験など無いからな。
「ううむ…どうしたもんか」
「バル爺!あっちの方に行ってみようぜ」
カルマはそう言うと森の中を指した(指なんて無いけど)。
「森なら逃げ隠れたやつがおるやもしれん。行ってみるとするか。離れるなよ」
カルマを背中に乗せ、森の中へと踏み入った。