修行じゃ。お主らを強くしてやろう
「誠に…ありがとうございました!!」
「大したことではない。気にせんでよい」
『この賢王の力を持ってすれば簡単なことよ』
この土地の栄養や畑作のための水を解決することは大したことではない。膨大な魔力の少しを使うだけで出来てしまうからのう。
頭を地面につけ、屋外で土の上だというのに村民全員が感謝の意を示していた。
「面をあげい」
「そ、そんな!畏れ多」
「今一度言うぞ?面をあげい」
二回目でやっと頭を元の高さに戻した。我はそんなに敬われるのは好きではない。もちろん嫌いでもないが…。
「さて、村長よ。我らはここを発つ。今回は気まぐれで助けたが…我は暴風龍。壊すのも簡単じゃ」
「!!」
「故に、我の機嫌を損ねぬようにな。我は働かぬものは嫌いじゃ。休むことももちろん大事じゃが…怠けるのと休むのは違う。それを肝に銘じ、精一杯生きよ」
村人全員に聞こえるように大声で言う。生物は基本的に楽を選びやすい。それを悪だとは言わぬが…気に食わぬ。
「村人一同、そのお言葉…しかと胸に刻みました!暴風龍様のご期待に添えるように精一杯やらせていただきます!」
「うむ。頑張るがよい」
そして我らは村を出た。報酬は受け取らなかった。いや、たった一つだけ約束をしたかのう。
「数年後、いつかはわからぬが、今一度ここに立ち寄ろう。その時は…盛大な宴を催すことを約束するのじゃ」
そんな約束をし、今回の件を収めた。
「ありがとう暴風龍様!!」「村の救世主!」「オイラ頑張るから見ててくれ!!」「ぼうふうりゅうさま、ありがとう!!」
数多くの感謝の言葉を背に亀車を走らせる。ふむ。まあ、気持ちいいものじゃな。
顔が自然と緩む。
「バル爺様…とても感動しました!」
「バル爺かっけーな!俺もあんくらい出来るようになるぞ!」
ブリッサとカルマが目を輝かせ、自分の目標を見つけたようじゃ。我が子らの役に立ったのなら良かったわい。
「さて、次の街へと向かうとするか」
「ソフィー!スピード上げてくれ!」
カルマの要望通り、亀車の速度は上がり、馬よりも、風よりも速くなる。
こうして、我らの旅はまだまだ続くのじゃった。
村を出て5日ほどか。途中で立ち寄れるような村や町は無く、申し訳程度に整備されている道を進んでおった。
「そうじゃ。自分の手のひらに魔力を集めて、それを凝縮するのじゃ。最初は両手でやると良い。握り飯と言ったか?この前ソフィーが作った飯のように握るのじゃ」
『余の料理法には魔力も深く関わっておる。ブリッサよ、我の料理を習えば一石二鳥じゃ』
「なるほど…」
亀車での移動中、手持ち無沙汰だからと言ってサボっているのはもったいない。故に、我はカルマとブリッサに修行をつけることにした。
今は【魔力凝縮】のやり方を教えている。我も魔法を使う時は基本的にこれを無意識的にやっている。
「難しい!!」
カルマがあまりの難しさに声を上げる。
魔力をボールのように凝縮し、空中に留めるのだが、もちろん簡単なことではない。これが使えるのは人間だと1万人に1人と言ったところか。
じゃが、これは戦闘での基礎。侮れば不利になるし、極めれば大きな戦力差を覆せる。
「じゃから諦めるなよ。根気強くやるのじゃ…カルマ、擬人化を解いてみたらどうじゃ?」
「へ?」
「スライムの姿がお主の本当の姿。その方が上手くいくと思うぞ?」
我の言う通りにカルマがスライムの姿に戻る。人型の方が腕はあるが、元々カルマに腕という概念は無かった。だから…
「おお!本当だ!簡単にできた!」
言った通りじゃろう?まぁ、簡単に出来るのはカルマの才能故じゃろうがな。
『そのまま、中心に押し込むように、一定の速さでだ』
「出来ました!ありがとうソフィー!」
ほぉ、ブリッサも上手くいったようじゃな。やはり此奴も非凡なる者じゃな。
『余の教え方ならあっという間に強くなれるぞ』
「流石だね!」
『教えることに関しては余の右に出るものはおらん。余こそが一番だ』
…気に食わんな。
「ふん!貴様ごときよりも我のほうが上手いに決まっておろう?」
「ちょっと!バル爺様!?」
何を焦っているのじゃ?事実じゃろうに。
『ほぉ…?』
む?周りの空気が重くなったか。ソフィアがこちらを睨んでいる。
「何じゃ?文句でもあるのか?」
『文句しかないわ!余の方が教えるのは上手い。そらは譲らん』
「ふん。どうだかのう。今回はたまたまじゃろ」
ソフィアの魔力が高まる。しょうがない。自己防衛とペットの躾ということで軽ーくお灸を据えると…
「バル爺落ち着いて」
「ぬぉ?」
カルマにベシッと叩かれた。息子に叩かれるとはダメージはないが心に響くのう。
「そんな事で喧嘩するなよ…優劣決めれば良いんだろ?」
「じゃがどうやって」
「ソフィーはブリッサ姉を、バル爺は俺を教えればいいだろ?それでどっちが強くなるかを競うんだよ」
ふむ、なるほどのう。それなら良いかもしれん。
「え、てことは私はいつかカルマ君と戦うの?」
むう、それはそうじゃな。同じ家族同士で本気での戦いは辛いか。
『それならばアレが良い。山に引きこもっていた貴様は知らんだろうが、ヤマトへの途中にある大きな街で武闘大会がある。それは種族は問わなかったはずだ』
「それってもしかしてローマンのコロシアムのこと?」
『おそらくそこのことだな』
「たしかにあそこは種族問わない大会だけど…死人がよく出るって話…」
『大丈夫だ。余が教えればすぐに英雄を倒せるレベルになれる。コロシアムごときで死ぬことはない』
「ふむ。そうじゃな。それにするとしよう」
当分の目標も決まったのう。ヤマトに行く前に寄り道するとしよう。
「さ、カルマや。次の修行じゃ。まずは魔力凝縮できる数を増やすのじゃ。今は一つしか魔力ボールはできないが…そうじゃな、最低でも10個だ。それくらいできたら次に進むとしよう」
「えー…」
『ブリッサよ。お主はまずは片手で魔力ボールを作れるようにしろ。できたら指先で一つずつ。それも出来れば足の指でも作れるようにしなさい。それができたら次のステップだ』
「そ、そんなぁ…」
…やる気なのは教師側だけかもしれん。




