文献から抹消された、幻の料理。我の予想を遥かに超えた物じゃ!
「さぁ。始めるぞ」
調理台に立つ幼女…ソフィアが偉そうにしとるわい。
おままごとに見えるって言ったら怒りそうじゃな。
「おいじじい。また失礼なことを考えていただろ?」
「じじいだと?もっと優しい言い方は無いのかのう?」
「ふんっ」
荷車の調理スペースに買い揃えた道具と食材を出す。
「まず、野菜を切る。【ウインドカッター】」
ぬ?風魔法で切るのか…包丁はなんのために買ったんじゃ…。
「威力はお前よりは弱いが、精密さならば負けてはおらん」
「アホぬかせ。全てにおいて我の方が上だ」
「…もういい。次じゃ」
植物からとった油を鍋にスプーン二杯分入れ、野菜を炒める。
水魔法で出した、天然水以上に綺麗で美味しい水を加えて煮込む。なるほど、自然魔法を複合することで美味しさまでも倍増させるのか。
興味深い魔法じゃ。
そして途中で出てきたアクを取り除く。
「まだかー?」
「カルマ、もう少し待っておれ」
「あいよー」
我慢出来ないようじゃなカルマよ。ずっとそわそわしておるわい。
「ここから20分ほど煮込む」
「「「えーーーー…」」」
「少しは我慢というものを覚えぬか!特にベンダバル!お主は何百年生きとるんじゃ!」
「腹が減った時はそんなの関係ないわい!」
…500年より長く感じる20分であった。
自分にとって都合が良い時はすぐに時間は経つくせに、こういう時は長いのう。
む?良い匂いがするのう。
「充分煮立ったら、この魔法のスパイスを入れる」
「見たことないですね」
「なんだそれ、変な匂いするぞ」
「ふむ。我も見たこともないのう。何なのじゃ?」
「我が自然魔法で再現した、各種スパイスを混ぜたルーという物だ。これを使うことでこの料理が完成する」
なんと…すでにこの時点で良い匂いがしている鍋に【すぱいす】とやらを入れるのか…。
「あとはルーが溶けて、よく混ざったら炊いたご飯にかけて完成だ」
「もう!ご飯!装って!いいか!」
「…はぁ。…いいぞ」
待ちきれないカルマに呆れたのか、ため息をついて許可を出した。
どれどれ。我も器にご飯を装うとしよう。
お前も我慢できてない?忍耐?
そんなの空腹の我には関係ないわい。
「ふむ…茶色か」
白米の上に茶色の液体状の料理がかけられる。所々に見える野菜の色合いが調和を取っておる。
「これが今から200年ほど前に大流行したが、そのスパイスを巡る、文明が滅ぶ戦争の原因になった料理…【カレーライス】だ!」
「スプーンで食べるのじゃな?」
「ああ。そして食べる前にこう言っていたらしい。【イタダキマス】と」
ふむ。なにやら変な響きじゃな。
「では我らもそれに倣うとしよう…」
「「「「【イタダキマス】」」」」
まずはカレーだけを。むむ!これは…スパイスが効いていて程よい辛さを舌に伝える。しかし、痛みではない。食欲をそそる匂い、様々な食材から作られた味、これは素晴らしいのう。
「うめーーー!!!!」
「ソフィー!これ美味しい!」
「美味いのう。我の龍生で一番じゃ」
「ふっ、当たり前だ。今では我にしか作れない伝説の料理だからな」
悔しいがこれはソフィアに感謝じゃな。これを食べずに500年生きておったのか…もっと先に人間に興味を持てばよかった…。
いや、後悔先に立たずじゃ。これから美味いものを食っていけばよかろう。
「白米と共に食べるとさらに良いのじゃな?」
「ライスとは米のことを指す言い方らしい。カレーライスと名前がつけられるほどだ。一緒に食べた方がいいだろう」
では、いざ…実食!
パクっ…
「これは…!!言葉に出来ぬ。一体この美味さをなんと言えばいいのじゃ…」
「おかわり!」
「早いな。ほらよ」
「しかし、熱いですね。身体が燃えているみたい」
ホントじゃ。身体が熱い。今なら炎のブレスを出せそうじゃ。
「ほかの食材も使えば激辛も作れる。今回は最初だから皆が食べれる辛さにした」
「なぬ?これより辛くなるのか?」
「ベンダバル。お主はともかく、カルマやブリッサには難しいからな。ある程度にした」
「気遣ってくれてありがとう。ソフィー」
「うめーよ!ソフィー!」
「お主ら!黙って食え!」
ぬ?顔が赤いぞ?
「ふっ。お主照れておるのか?そんなに怒らなくてもよかろう?」
「照れてなどおらん!勘違いするな!」
「わかったわかった」
「絶対分かっておらんだろ!くっそーー!!!」
「「「あははは!!」」」
「もう作らんからな!絶対絶対作らんからな!」
顔を真っ赤にして怒るソフィア。
それをみて笑うカルマ、ブリッサ。
とても賑やかな旅になりそうじゃな。
特に今日の事は、一生の思い出になるじゃろう。
そう思ったわい。
カレーはとろとろしたカレーが好きです。実家ではジャ○カレーの辛口でしたね。あ、久しぶりにカレー食べたい。




