龍にとっても街とは楽しいものだった!
「ここはなんじゃ?」
食べ物やら装飾品やらが数えきれないほど置いてある。これは…?
「市場ですね。食材から骨董品まで扱う、この街最大の市場なんですよ!」
「へぇー!すげえんだな!人間も!」
カルマも感心しておる。むぅ、たしかに認めるしかないのう。人間でも凄いところはある。
「さ!見て回りましょう!」
「おう!」
「うむ!」
しばらく見て回る。む?この匂いは…
「ブリッサよ。この匂い…肉の匂いだ」
「え?何もしない気が…」
「いや、バル爺の言う通りだ、あそこだ!」
ブリッサのフードの中に入っていたカルマが走って行ったのを追いかける。
「おっちゃん!その焼いてるやつを10個くれ!」
「あいよ…ちょっと待って…って、スライム?」
「こらっ!勝手に走らない!危ないでしょ!」
ブリッサがカルマの頭を叩く。ポヨンッと柔らかそうな音がする。あれじゃとおそらく効いておらんな。
「カルマよ。迷惑をかけると我らはこの国に居れなくなるぞ?」
「それは…やだな」
「今後気をつけるのだ。して?何を頼んだのじゃ?」
「焼いてるやつを10個頼んだ!」
ふむ…この匂い、黒い液体がかかっていて判別しづらいがおそらくは【暴れる猪】じゃのう。やつの身は引き締まっていて、食べ応えがある。
「あっ、ああ、使い魔か。姉ちゃん、喋るスライムなんて珍しいな」
「そ、そうですね。アハハ」
「…」
カルマが使い魔呼ばわりされて少し不満そうじゃ。まぁ、便宜上その方が良いじゃろう。
「うむ。店主よ、美味いのを頼むぞ」
「あいよ!少々待ってくれ。ほい、とりあえず一本ずつ」
ふむ。気が効くのう。うむ。程よい咬みごたえでジューシーな肉汁が溢れでるわい。美味い!
我らが食っている間に手際よく肉が焼かれていく。
「めっちゃうめーな!おっちゃん!」
「ありがとよ!スラ公!」
「あ、そうだ。いくらですか?」
「20本だから銀貨1枚だ」
「はい」
「毎度あり」
先ほどカルマが食べた物より少し高いのは使われている肉の差か。さっきのは【普通の猪】。手に入りやすいのじゃ。
…我にとっては寝てても獲れるがのう。
「さて、食べながら行くぞ」
「おう」
「カルマ、我かブリッサの近くにいるのだぞ?探すのは面倒だ。それと、街の中では使い魔ということにするのじゃ。理由は分かるな?」
「…はーい」
渋々了承してくれた。
「む?あれはなんじゃ?」
嗅いだことのない、甘い匂い。透明な水か?だが気泡が立っているようじゃ。
「あれは確か、異世界から来たっていう人が作った、【さいだー】です」
「ほぉ、【さいだー】。確かに我も聞いたことがないのう」
「美味いのか?」
「美味しいって評判ですよ!高くて飲んだことはありませんが…」
早速1つずつもらう。大量生産が難しく、1つで銀貨1枚と値段が高かった。まぁ、我の財宝からすれば鼻くそみたいなもんじゃ。
「どれ…うっ!!」
「バル爺様!?まさか…毒!?」
「美味い!なんじゃこれは!?」
しゅわしゅわと口の中で騒ぎ立て、喉を刺激し、腹へと下っていく。甘くて美味しいし、楽しいのう!
「うぉぉ!!美味え!」
「本当ですね!こんなの初めてです!」
ゲプッとカルマがゲップをしおった。売り子に聞くと飲み過ぎるとそうなるらしい。不思議なもんじゃ。
「さてと、次は…」
その調子で我らは夕方まで遊んでおった。
「あ、お帰りなさいませ。ベンダバル様」
「うむ。戻ったぞ」
受付の女性も慣れてきたな。接客が普通になっとる。流石はプロじゃ。
「おお!お帰りなさいませ!馬車は完璧です!さぁ、こちらへどうぞ!」
意気揚々とギルマスは我らを倉庫へと案内していく。何でも、馬車は大きくて、道に置いておくと邪魔になってしまうと言っておった。
「これです!」
「ほぉ」
あまりの素晴らしさに声が漏れた。王族が乗るような素晴らしい馬車だ。しかも頑丈だ。並大抵の攻撃なら防ぐじゃろう。
「良いぞ!良い働きじゃ!」
「すげー!!」
「ふ、ふかふかですぅ!」
中に入った2人も高評価じゃ。中は広く、3人なら眠れるくらい広い。
「従来の馬車と違い、揺れにも強いです。何でも少し前に異世界から来たと言う勇者様が『さすぺんしょん』とかいう物を教えてくれたらしく、それのおかげで、衝撃が緩和されるようになりました!」
「ほぉ、異世界からの来訪者か…」
久しぶりに聞いたのう。似たような話を聞いたのは…200年くらい前かのう?
「他にも機能がありまして、〜」
おお、沢山あるのう。もはや家に近い機能ではないか?住めるほどじゃ。
だが、機能を語り終えた瞬間、ギルマスの顔が途端に悲しくなっていく。
「しかし…問題がありまして」
「なんじゃ?」
「…これを引く馬がですね…いい馬がいないんです。急な用意でしたので…申し訳ございません!」
「それはしょうがないことじゃな。頭を上げい」
無理にお願いしたのは我じゃし。
「ふむ。どうしたもんかのう」




