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妖精  作者:    
8/36

8 パーティー初参加②

 「改めて初めまして。僕はクリクリィート。お名前を聞いても?」


 男性は空いていた席をひいて私を先に座らせると、自分も席に腰をかけてスマートに自己紹介をしてきた。うん、優しそうな人だ。まぁ私の男性を見る目なんて真二の件で全くの節穴だと判明したけど。


 「染谷茉莉よ。よろしくね。」


 「こちらこそ、ソメィヤマーリィ。」


 むむっ。こっちの人達はデフォルトで『ソメヤマリ』が『ソメィヤマーリィ』に聞こえちゃうのは何故なんだ。えーと、クリクリィートね。私は珍しく名前が聞き取れたことにホッとした。


 「えっと、クリクリィートは普段は何をしている人なの?」


 「父親の手伝いだよ。」


 父親の手伝い・・・それはもしやニートと言うやつでは!?好物件揃いと聞いていたのにどういう事だと怪訝な顔をすると、クリクリィートはこちらの様子に気付いて補足してきた。


 「僕の父は議員をしているんだ。僕はその秘書をしながら政治の勉強している。」


 「じゃあ、クリクリィートは将来は政治家を目指しているの?」


 「一応、そういうことになるね。」


 思わず「すごーい!」と感嘆の声をあげると、彼は耳をほんのり赤く染めて頭をぽりぽりと掻きながら照れ笑いをした。多分年上なんだけど、なんだかその様子が可愛く見えてふふっと笑うとクリクリィートは目を見開いて顔を益々あかくした。

 うん、好物件だ。優しそうだし、真面目そうだし、女遊びして無さそうだし。最初からこの人とは幸先いいな。その後も私は食事をしながらクリクリィートとお喋りして過ごした。2時間のパーティーの間、クリクリィートとしか喋れなかったけどとってもいい人だったからまぁいいや。ガティは私の一人舞台って言っていたけど、結局クリクリィート以外から話しかけられる事は無かった。

 この後も繋がるといいな、と思っているとクリクリィートが私に真剣な顔で向き直った。


 「その、ソメィヤマーリィが嫌じゃ無かったら、また会えるかな?」


 「もちろん!」


 やったー!!次、誘って貰えた!うん。沢山の人にモテなくったっていいのよ、こうやって私を気に入ってくれる人が一人でも居れば万々歳。こうして私の初パーティーは楽しい時間となったのだった。 


 パーティー終了後にお部屋に帰ろうとしていると、鈴を鳴らすような可愛らしい声で「ねぇ。」と後ろから呼び止められた。振り向くとオレンジ色の髪に少しだけ浅黒い肌、大きなオレンジ色の目をした小柄な女の子。この子、さっきの会場で囲まれていた妖精かなって思った瞬間、向こうから自己紹介された。


 「初めまして。バネットよ。私も妖精なの、よろしくね。」


 うわ、可愛い!ふわっと笑って自己紹介する目の前の子はまさに妖精さん。キラキラが舞ってるし、背中に羽根が無いのが不思議なくらいだよ!


 「初めまして。私は染谷茉莉だよ。ついこの間、ここの世界に来たの。」


 「そうみたいね。ねえ、ソメヤマリ。時間があったら少しだけお喋りしない?」


 「喜んで!!」


 私とバネットは広い廊下の所々にあるベンチに腰を降ろしてお喋りする事にした。廊下を通りかかる兵士や文官、女官は妖精2人組が珍しいのかチラチラと視線を向けてくるが、バネットは全く気にしていないようだった。


 「私はね、13歳の時にここの世界に来たの。今18歳だからこの世界は5年目よ。普段はマルキン商会のお宅にお世話になってるわ。」


 「マルキン商会?」


 「ソメヤマリは最初から年頃だったから伴侶が見付かるまで王宮に一時的にいるけど、小さいうちにこの世界に来ると然るべき家庭に里子にいくのよ。私はマルキン商会。とっても大切にして貰ってるわ。」

 

 へえ、そうなのか。私はもう年頃だから、さっさと伴侶探しして出て行くと思われているって事なんだね。成る程。


 「バネットはさっき凄い人気だったね。私は一人しか話し掛けてくれなかった。いい人だったけど。」


 「そりゃあ、仲良く椅子に座って話してれば誰も邪魔出来ないわよ。椅子に座って会話するのは『私達は2人で話したいから邪魔しないで』って意味があるのよ?ソメヤマリと話したくて何人も男性がチラチラと見てたわよ。独り占めされちゃって彼らにとってはお気の毒。ところでその水色の爪、とっても素敵ね。」


 バネットは私の爪を指さした。そう言われてバネットの爪をみると、茶色をしていた。茶色は半年に1回位の割合でどこかしらに現れるってスエリ様が言っていたっけ。でもこの水色はジェルネイルで偽物。あんまりジロジロみられたく無くて、私は「ありがとう」と言うとへらっと笑ってさっと手を隠した。


 「さっきの男の人に唯一を感じたの?」


 「え?」


 「私もまだ自分の伴侶が見付からないから体験したこと無いんだけど、妖精は自分の伴侶が本能的にわかるんだって。たまらなく惹かれるらしいわよ。早く見付からないかな-。こっちから幸福を与えるだけじゃ不公平だと思わない?」


 バネットは不満げに頬を膨らませた。本能的にわかる?私は先ほど会ったクリクリィートの顔を思い浮かべた。それなりに格好いいと思う。やさしそうだし、誠実そうだし。でも、本能的にわかったかと言われるとイマイチわからない。でも、まだ1回しか会ってないし、次に会ったときに確信するかも知れないよね。


 「まだわからないわ。ところで不公平ってどういう事?まわりから大事にして貰ってるよね?」


 「それはそうなんだけど、妖精は自分が好意を寄せるまわりの人に幸福を呼ぶでしょう?妖精自身の幸福は伴侶がもたらすって言われているの。ま、幸福を呼ぶって言っても漠然とし過ぎててわかりにくいけど。でも、これまでに会った伴侶を得た妖精はみんな例外なく幸せそうだったわよ。妖精のまわりの人も含めてね。」


 バネットはそう言うとふふっと笑った。妖精はまわりに幸福をもたらし、妖精自身の幸福は伴侶が呼ぶ。だから、国はこんなに伴侶探しをバックアップしてくれるのか。私はまだ見ぬ自分の伴侶に思いを馳せてみた。どんな人なんだろう。クリクリィートでは無いのかな。早く会ってみたいな。

 私はバネットとまた次のパーティーでお喋りする約束をして別れたのだった。この世界で初めての妖精のお友達はとっても話しやすくていい子だった。


 



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