7 パーティー初参加
湯上がりでさっぱりした私の後ろでキーロが忙しなく動き回っている。ワンピースにアクセサリーに髪飾りにと色々な服を沢山抱えて持ってきてはベッドの上に並べていた。どれも上質な物であることが一目瞭然で私のこれまでの人生で縁が無かったような代物ばかり。
そして鏡の前に座る私の斜め後ろでは化粧師のガティが眉間にしわ寄せながら、キーロの持ってきたドレス類と私の顔を交互に見比べている。どうやら、また私のイメージを膨らませているらしい。
今日、私はスエリ様に教えられたパーティーに初参加する事になっている。このパーティーはつまりは国公認のお見合いパーティーのようだ。妖精の伴侶探しを手伝う一方で、妖精以外のカップルも数多く成立していて高い確立で結婚に至っているのだとか。
国が妖精の伴侶に相応しいと判断した人間を厳選してふるいにかけているので、参加者は全員身元のしっかりした好物件らしく、どんな人達が来てるのか今からちょっと楽しみ。毎回毎回、参加希望が凄い倍率らしい。願わくは、条件が良くても真二のような最低男は居ませんように。
ガティは何着かを私にあててはポイッと投げる動作を繰り返した結果、私の水色の爪が映えるようにと淡い黄色のワンピースを選んだ。高級ワンピースをためらいもなく投げ捨てていくガティって一体!?キーロはそれらを凄い勢いで回収してはどこかに持ち去って行っていた。
そして、今回もガティの特殊メイクばりの凄腕メイクであっという間に可憐なレディが出来上がっていた。最後の仕上げにと私の頭には金細工で小花のあしらわれたカチューシャが飾られた。ガティが言うには、私のさらさらの黒に近いダークブラウンヘアは無理に結い上げるより下ろしておいてカチューシャやピンを留めたほうが長さ的に良いらしい。やっぱり私も女の子の端くれ、きれいにして貰えると素直に嬉しい。
「まぁ、マリィ様お綺麗ですわ。」
「当然でしょう。あたしが化粧したのよ?今日のパーティーは間違いなくマリィの一人舞台よ。」
キーロが感嘆の声をあげると、ガティは満足げにふふんと鼻をならした。わかりにくいけど多分綺麗だって褒めてくれてるんだよね?
「ガティ、ありがとう。今度お礼させて?」
「あら、マリィは妖精だからそう思ってくれるだけで十分よ。きっと幸運は向こうからやって来るわ。キーロンボシュみたいにね。」
「ん?キーロ何か良いことあったの?」
キーロに良いことがあったなんて初耳だ。私聞いてないよー!と頬を膨らませてちょっと拗ねてみた。
「申し訳ありません、マリィ様。言おう言おうと思ってもなかなかタイミングが掴めず・・・。実はわたくし、数日前からジュンフィーグ様と親しくさせて頂いておりますの。ずっと憧れていたお方だから夢のようですわ。マリィ様のおかげです!」
ジュンフィーグ?え?ジュンフィーグってたしか副隊長のジュンのフルネームだよね!?
「えー!!そうなの!?全然知らなかったよ!」
思わず大きな声で絶叫してしまった。新しく出来た友達同士が親しくなれば良いとは思ったけど、まさかこの短期間に男女の仲になるとは!そもそも、私はキーロがジュンに密かに憧れていたことすら知らなかった。
「びっくりしたけど、よかったね、キーロ。そうなったのは私のお陰じやなくて、キーロの魅力だよ!おめでとう!!」
キーロは何か言いたげだったけど、私の言葉にはにかんで微笑んでくれた。うーん、キーロってば照れてほっぺがピンク色になってて可愛いなぁ。こんなに可愛かったらジュンも好きになっちゃうよね。よし、私も早くいい人見つけよっと。そうして私は意気揚々とパーティーに出陣(?)したのだった。
パーティーは王宮の一画の広間で開催されていた。足を踏み入れると綺麗に着飾った年頃の男女が沢山いて、既に仲良くなったのか親しげにグラスを傾け合う2人組もちらほらと見える。どうやらフリートークかつバイキング形式らしく、自分から話しかけるか話し掛けて貰わないとぼっちになるっぽい。結構ハードル高いぞ、このパーティー。壁の花になったらどうしよう・・・
広間の後ろ側からそっと入った私の存在に、会場の男女は誰も気付いていなかった。落ち着いた雰囲気の内装の大広間の壁際の一画には簡単に摘まめる料理類が並んでおり、ドリンクはその脇のカウンターか給仕人を捕まえ頼むようだ。
多くの男女が楽しそうに歓談しているなか、一際人垣が厚い方に目をやるとオレンジ色の髪と茶色い髪が見えた。灰色の髪じゃ無いって事は、あれが今日来る予定になっていた私以外の二人の妖精だね。でも、人垣が厚くて近づけそうにない。
うーん、どうしよう、と思って大広間を見回していると、私は知っている顔を正面の壁際に発見した。壁に沿って一人で立っているって事は連れはいないってことだよね。ぼっちは寂しいのですぐに寄っていくと、向こうはずんずんと近づいてくるこっちに気付いてぎょっとした顔をしていた。
「ユーリ!ユーリも一人ぼっち?一緒だね!」
「俺は会場警備の仕事中だ。」
「えー。ぼっち仲間じゃ無いの?残念。」
ちえっ。ユーリと一緒にお喋りしてれば寂しくないと思ったのになぁ。確かによくよく見ればユーリはいつも着ている黒い制服だ。この制服、なんか小洒落た格好いいデザインだから遠目に見ると正装にみえたのよ。でも、仕事中でも喋る位は平気かな?
「妖精さん2人は凄い人気者なのね。喋ってみたいんだけど近づけないよ。」
「そりゃ、みんな妖精に会うのが目的だからな。マリィもあの輪に入ればすぐ囲まれるよ。行かなくていいのか?」
「行くよ。私、さっさと伴侶探しをしなきゃなんだよ。でも、もうちょいユーリと話してから行く。」
「何でだよ。」
「いーじゃん。別に。」
全くいつもこの人はつれないねぇ。どちらかと言うと、妖精である自分を避けているような気がする。もしかして私って嫌われているのかな。
「ユーリは私が嫌い?」
「は?何でだよ。」
以前は『お勧めはしない』リピートだったけど、今回は『何でだよ』リピートですか。何でだよって、ユーリがあまりに素っ気ないからだよ。
何も言わないでジトッとした目で見上げる私の顔を見てちょっと焦ったような顔をしたユーリは、とっても小さな声で「別に嫌いじゃ無い。」と呟いてそっぽを向いた。よく見ると耳赤い。もしや、これは噂に聞くツンデレと言うタイプなのでは?!ユーリの顔をよく見ようと回り込んで覗こうとしたら顔ごとぐいっと手で追いやられた。
「ひどーい。せっかく綺麗にお化粧して貰ったのに!」
「煩い。さっさとあっち行け。」
面倒くさそうな顔をしてユーリはシッシッと手をあおる真似をした。ほんとにこの人は、可愛いとかワンピースが似合ってるとか、少しは気の利いたことを言えないのかね??尚も詰め寄ろうとした私の意識を引き戻したのは第三者の声だった。
「こんにちは、妖精さん。お話できますか?」
いつの間にやらすぐ近くにやわらかい笑顔の男性がいた。少したれ目の優しい印象の男性で、そこそこ格好いい。制服じゃないからこの人は普通のパーティー参加者だよね。
「勿論よ。」
「ではあちらに行きましょう。」
男性は大広間の中央やや壁よりにいくつか設けられた休憩用のチェアを指さした。
「ええ、そうね。ユーリ、またね。」
「ああ。戻って来るなよ。」
「相変わらずつれないねぇ。ま、いいや。」
私はひらひらとユーリに手をふると男性と一緒に席に移動した。
「彼と仲が良いのですね。」
男性が視線でユーリを指したので私は首を振った。
「そうでもないわ。反応が面白いからちょっかい出しているだけよ?」
私の返事を聞いた男性は何とも言えないような微妙な表情を浮かべて首をかしげたのだった。