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妖精  作者:    
6/36

6 訓練見物してみました

 その日の午後、キーロに案内されてお城を散策していると、広場みたいなところに男の人たちが沢山居るなかに見覚えのある2人がいるのを見つけた。渡り廊下から下を覗き込んでみると、思った通りそれはユーリとジュンだった。周りの人達は制服のような黒い服を着ている中でユーリとジュンを含む数人だけが上腕の外側の辺りにワッペンのような飾りがついているからちょっとだけ目立つのだ。


 「こちらは王都警備隊の訓練場ですのよ。平和な日々が守られるように、隊員達は日々鍛錬しております。」


 キーロも私の隣りに立って下を覗く。警備隊の人達はグループに別れて剣の鍛錬や、格闘技のような組手をしたりしていた。2人で並んで眺めていると訓練中の一人が下を眺めるこちらに気付き、近くの人に何かを言う。その途端に、周りの男性達も一斉にこっちを見た。ユーリとジュンもこっちを見たので私は笑顔で大きく手を振った。


 「ユーリ、ジュン、頑張れー。」


 2人とも大きく目を見開いて驚いた顔をして見上げていた。手を振った時にキラキラが舞ったのに驚いたのかな、と思っていたら凄い勢いでジュンが階段を駆け上がってくる。三段とばしとは足長いねー、羨ましい。


 「マリィ、何してんの!」


 「何って散策よ?あ、こちらは私のお世話係をしてくれることになったキーロだよ。仲良くしてね。」


 「え?あぁ、よろしく。ジュンフィーグだよ。王都警備隊第1小隊副隊長をしている。」


 突然キーロを紹介されて戸惑ったような顔をしたジュンだったけど、すぐに柔らかい笑顔でキーロに自己紹介をした。対してキーロも慌てて挨拶を返す。


 「は、初めまして。キーロンボシュでございます。以後お見知り置きを。」


 数少ないここの世界の友達が仲良くなってくれたら日々の生活がもっと楽しくなりそうだとご機嫌な私に、すぐにジュンが怖い顔をして向き直る。


 「マリィ!なんでこんなところで警備隊の訓練を見物してるの?」


 「見ちゃ駄目だったの??」


 「いや、そう言う訳じゃ無いけども・・・。狼の群れに兎が近づくようなものなんだよ。」


 「確かにみんなシベリアンハスキーに似てるから狼っぽいよね。」


 「マリィ、何言ってるの?」


 けらけらと陽気に笑う私に対してジュンは出来の悪い子供に呆れたような深いため息を「はぁ・・」と盛大についた。なんだか私が呆れられているようで納得が行かない。キーロと何やら会話を交わしはじめたジュンは放っておいて階段の下まで見にいってみることにすると、階段下では今度はユーリが待ち構えていた。

 

 「ねぇユーリ、見物してもいい?」


 「駄目では無いがお勧めはしないな。」


 「狼の群れの中の兎だから?ジュンが言ってた。」


 「その通りだ。でもマリィは意味わかってないだろ。」


 ユーリの後ろにはいつの間にやら、わらわらと警備隊の人達が人垣をつくっていた。このキラキラはやっぱりこっちの世界の人にとっても珍しいんだね。自分の手をぐーぱーしてみたら、手からもキラキラが舞う。


 「なんか皆さん集まってきてしまって訓練の邪魔っぽいね。ごめんなさい。今日のところは退散しようかな。また見に来て良い?」


 「駄目では無いがお勧めはしない。」


 眉間にしわを寄せてちょっとしぶい顔をしたユーリは、近くで見上げると綺麗な顔の目の下に少しだけくまが出来ていた。疲れているのかな。昨日も私を探して連れて帰ったせいで忙しかったよね。

 後ろでは「是非来てくれ」とか「いつでも!」とか、外野の警備隊の皆さんが騒ぎ立てている。


 「ユーリってば、そればっかりなのね。後ろのみなさんは歓迎してくれるみたいだから、今度は邪魔にならないようにそっと見に来るね。ユーリの疲れが取れますように。」


 ユーリの眉間のしわをとるようにトンっと人差し指でつつくとふわっと金粉がユーリを包んだ。うわっ、こんなに沢山出たりもするのか。ユーリはびっくりした顔をしてポカーンとしていた。

 後ろの外野がまたもや「ずるいぞ」とか「俺にも」とか騒ぐ。君たちはそんなにこのキラキラが気になるのか。これ以上長居すると本格的にお邪魔だと判断した私はキーロとその場を後にした。

 

***


 ユーリルーチェはマリィが去った後に呆然として額に手を当てた。眉間にはマリィに突っつかれた余韻がまだ残る。ユーリの役職である小隊隊長は下位の中間管理職のようなもので雑務も多く多忙だ。昨日もマリィを発見した速報の報告を上司にしたあと、すぐに正式な報告書をまとめたりと雑務に追われていたら、いつの間にやら窓の外が白み初めていた。それなのに、マリィがトンと突っついた瞬間、信じられない事に一瞬で疲れが吹き飛んで体が軽くなったのだ。


 『妖精の祝福』と呼ばれる妖精からの(いたわ)りやねぎらいの言葉と接触は妖精のもう一つの力だ。妖精はそもそも、傍に居てその好意を向けられるだけで好意を向けた相手に幸福を引き寄せる不思議な力がある。そして、『妖精の祝福』は幸福を引き寄せるといった漠然としたものでは無く、もっと直接的な恩恵を享受出来るのだと聞いたことがある。

 ユーリが『妖精の祝福』を受けたのは初めてだが、確かに一瞬で信じられないほど体が軽くなった。昨日も、ジュンフィーグがマリィのおまじないを受けたらたんこぶが一瞬で治ったと言っていた。


 「凄いな。みなが欲しがるわけだ。」


 きっと新たな妖精の出現は近いうちに多くの者たちの知るところとなる。少なくとも、マリィが見学に来たせいで王都警備隊の面々は新たな妖精が現れたと既に気付いたはずだ。

 皆がマリィを欲しがるなか、彼女はどんな相手に好意を向けるのだろうとユーリは小さくなった白いワンピースの後ろ姿を見つめた。


 


 


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