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妖精  作者:    
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4 初めての朝

 2人が去って行ったので部屋がシーンと静かになった。手持ち無沙汰で部屋に置いてある小物を見ようと手を伸ばすと、またもやキラキラと金粉のようなものが舞う。この金粉は不思議なことにキラキラと輝くのに空中で消えてしまってまわりはちっとも汚れない。いったいどういう原理だ??理系女子の血が騒いで金粉を触ろうと格闘していたら、入口のドアをノックする音がした。


 「どうぞ?」


 返事をするとドアを開けて入ってきたのは自分と年の頃が近そうな若い女性。やっぱり先ほどの2人同様に灰色の髪に灰色の瞳をしていて、その灰色の髪の毛を後ろでお団子にまとめている。

 どうやら日本人がみんな黒目黒髪なのと同様に、地下世界の人達はみんな灰色の瞳と髪のようだ。ただ、灰色の程度には差があってさっきのジュンが黒に近かったのに対し、目の前の女性はシルバーに近い。ぱっちりとした目元に少しだけ低めのお鼻が愛らしい雰囲気の女性で、自分の方を向いて頭を下げてきたのできっとこの人がお世話係なのだろうな、と思った。


 「本日よりマリィ様のお世話をさせていただきますキーロンボシュでございます。」


 女性はにっこりとして茉莉に挨拶をしてきた。


 ん?『黄色い帽子』??またもや名前が聞き取れない・・・


 「よろしくね。もう一度お名前を聞いてもいい?」


 「はい。キーロンボシュでございます。」


 「・・・。『キーロ』って呼んで良いかな?」


 キーロはびっくりしたような顔をしたけれど、嬉しそうににっこりとして承諾してくれた。こっちの人の名前、難しすぎだよ!!


 キーロは笑った顔が凄く可愛らしい人で、私に色々な事を教えてくれた。部屋の備品やお風呂の使い方、ここが『トルエド王国』と言う国であること。そして驚くべき事に、自分はここでは『妖精』ということになっていた。そう言えばハスキーその2、もとい、ジュンも私の事を『妖精さん』って呼んでたような・・・

 うーむ。ま、いっか。そもそも地下世界に居ると言うことがあり得ない位に非現実的なんだから、今更なんでも有りだと開き直る。そしてキーロが何かの果汁を搾ったような冷たい飲み物を入れてくれたので、それを飲んでいるとドアをノックする音が聞こえて夕ご飯が運ばれてきた。


 「わぁ、美味しそう!」


 思わず涎が垂れてきそうなご馳走の数々で、すっごくお腹のすいてたのでぱくぱくお腹に入る。味はあっさりしていて割と和食に似てる感じ。


 「お口に合いますか?」


 夢中で食べていたら、もうほぼ完食の段階でキーロがにこにこしてこちらを見ているのに気づいた。人目も憚らずにがっついてしまった事に、ちょっと恥ずかしくなる。


 「うん。凄く美味しいよ。お腹すいてたから夢中で食べちゃった。」


 照れ隠しで笑いながら答えるとキーロは満損気に微笑んだ。そして、私が使う寝間着やお風呂のタオルなどをまとめて用意してわからないことがあればこれで呼ぶようにと電子呼び鈴のようなものを置いて部屋を後にした。


 お風呂に入り、ベッドに入ると今日起こった事が走馬灯のように頭に過ぎる。始めてのこっぴどい失恋はこの地下世界??のおかげでじめじめせずに済んだ。

 しかし不思議なこともあるもんだ。ここってそもそも地球なのかな?そんなことを思いながら、私は夢の世界に(いざな)われた。



 翌朝、いつになく気分良く目覚めるとそこは見慣れた自分の部屋とは明らかに異なる場所・・・


 どうやら夢では無かったらしい。そして、朝から布団の上で私が体を動かす度にキラキラが舞う。本当にどういう化学反応もしくは物理現象が起こってこのような現象が??大学に入るまでに習ったこれまでの知識では到底説明出来ないと眉間に皺を寄せて考え込んでいると、ドアをノックする音が聞こえてキーロが入ってきた。


 「おはようございます、マリィ様」


 キーロは柔やかに挨拶をすると今日着るお洋服である清楚な雰囲気の白いロング丈ワンピースを手渡してくれた。寝室奥の洗面所で顔を洗って着替えてから続き間であるリビングルームに行くと、いつの間にやらキーロと一緒に派手な化粧のオネエが1人。喋ってないけど多分オネエ。だって見た目は女っぽくしていて綺麗だけど、骨格が完全に男だもん。身長は私より20センチ位高いし、指の節だった感じとか体つきなんかも違う。


 「あらぁ、かわいこちゃんだわ。腕がなるわねー。」


 こちらを見てニンマリするオネエに嫌な予感がビンビンする。後ずさりしたもののあっという間に捕獲された私はオネエの両手で顔をがっしりと挟まれてこれでもかという位にじっくりと眺められた。


 「あの?」


 「しっ!黙って。今、あなたのイメージを膨らませているのよ。」


 「・・・はい。」


 オネエはやっぱりオネエだった。声も男だし力つよっ!でも、きっと心は女の子なんだね。人はそれぞれ、みんな違ってみんな良い。

 どっかで聞いた事がある曲の歌詞が頭の中にぐるぐるとループして浮かんでいたら、オネエは凄い勢いで私に化粧をしてきた。目の前のオネエ私物バッグと覚しき入れ物が出るわ出るわ、メイク道具の数々。そして、最後に唇に紅をさしてオネエは満損気に頷く。


 「どうかしら?幼さの中にも女性らしさが見えてドキッとするセクシーさがあるでしょ?」


 「はい。さすがはメーリンガティ様。素晴らしいですわね。お綺麗ですよ、マリィ様。」


 オネエの横で両手を握ったキーロが目を輝かせていた。オネエが手鏡を差し出してくれたので中をのぞき込む。


 「誰これ?」


 「まぁ!マリィ様でございますよ。可愛らしいですわ!」


 横でキーロがキャッキャと嬉しそうにはしゃいでいる。オネエに化粧をされた私はもはや別人だった。陶器みたいに白くてすべすべの肌、ほんのり色づいた桜色の頬、大きくぱっちりとした瞳に朱くぷるんとした唇。なんだこれ、特殊メイクか??


 「あたしは王室お抱えの化粧師、メーリンガティよ。以後お見知り置きを。」


 オネエがにっこりと微笑む。メーリンガティか。ここに来て初めて名前が聞き取れたけど、舌噛みそうだな。


 「はじめまして、茉莉です。綺麗にしてくれてありがとう。ガティって呼んでも良いかな?」


 ガティはくわっと目を見開くと感動したように目を潤ませて「勿論だわ!」と私の両手をきつく握ってきた。うん、間違いなく男だ。握力が半端なくてめちゃ痛い・・・


 ガティとバイバイした後、私は王室の方々と朝食を一緒にとるということになっているらしく、キーロに案内されて食堂へと向かったのだった。

 


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