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妖精  作者:    
31/36

31 友情パワーを舐めてました

 爪が透明だと明かして少し後、私とユーリの婚姻許可が無事におりた頃の話。


 「マリィ様が出て行かれてしまうなんて寂しいですわ。」


 「ホントよ。アタシの朝のルーチンワークが崩れちゃうわ。」


 キーロとガティは今日もわたしの身のまわりの世話をしながら涙ぐんでいた。

 この国の結婚は特に届け出がいるわけでもなく本人同士の合意で成立するが、私が妖精なので国王陛下の許可をとるそうだ。結婚式もしないし、結婚に淡白な国民性なのかな。

 ただ、妖精はその存在が貴重なので婚姻後もどこに住むかや何をしているかの近況を定期的に国に届け出る義務がある。

 初めてここに来た日から当たり前に横にいるキーロと毎朝のようにゲリラ的に出没するガティとあまり会えなくなると思うと私も寂しさを感じた。


 「私も寂しいな。キーロにガティ、いつでもうちまで会いに来てね!」


 「いいのですか?」


 「当たり前じゃない!いつでも大歓迎だよ!」


 ふたりは感激したように口を両手で抑える。家に来てと誘うだけでこんなに感激してくれるなんて、2人とも大げさだなぁ。私は2人に向けて「約束よ。絶対来てね。」とにっこり微笑んだ。

 そう、その時私は2人があんなことを企むとは思っていなかったのだ。この世界の人達は友人との距離感が元の世界よりかなり近いことを私はすっかり失念していた。この世界の友情パワーを舐めていたとしか言いようが無い。



 ユーリと初めての夜を過ごした翌朝、ベッドの中でユーリにすっぽりと包まれて心地よい気怠さを感じていた私はヒソヒソと話す声が聞こえて目を覚ました。

 

 「・・・・」


 「まだ多分寝てるから静に!」


 「新婚ですものね。ラブラブですわ。」


 「羨ましいわね。」


 うーん。結構敷地面積もあるのに、ずいぶん隣の家の声が聞こえるなぁ。うるさい。

 私はもう少しこの幸せな微睡(まどろ)みタイムを堪能したいとユーリの胸にすり寄った。ユーリはそんな私をキュッと腕の中に包みこんでくれて温かい。うふふ、幸せだなぁ。


 「まぁ、見て。あんなに寄り添って!ラブラブだわ。」


 「メーリンガティ様!さすがに覗き見はいけませんわ。」


 「だって待ちくたびれちゃったわよ。いくら2人の熱い夜を過ごしたとは言え、寝ぼうしすぎだわ。」


 「まさに幸せな新婚夫婦ですわね。邪魔しちゃ駄目ですわ。」


 ユーリに包まれながらも段々と意識が浮上してくる。なんかこの話し声、凄く聞き覚えがある・・・

 顔を上げた私はベッドに横になって私を腕に抱いたまま困惑顔のユーリと目が合った。初めて2人で迎える朝、本来ならここからまたイチャイチャタイムが始まるのだろうけども、とてもそんな感じじゃない。


 「おはよう、ユーリ。なんか私、嫌な予感がするの。」


 「おはよう、マリ。今日も俺は休みだからすぐに家の模様替えをしよう。やっぱりベッドルームは2階にする。」


 ユーリは着ていたナイトウェアを整えると勢いよくガバッと窓を開けた。それと共に、「うぎゃあ!」という女らしからぬ図太い悲鳴が聞こえる。私も何があったのかと慌てて着ていたネグリジェを整えてユーリに駆け寄った。


 「え、ガティ??何やってるのよ!?」


 「何ってアタシの朝のルーチンワークをこなしに来たのよ。マリィの化粧をしないとアタシの一日は始まらないわ。」


 ユーリの横からひょこっと顔を覗かせて外の様子を確認した私は予想外の人物に目を瞠った。窓の外で尻もちをついていたのはなんとガティだったのだ。化粧バックを抱えたガティはそんなの当然でしょうといった雰囲気で答える。

 化粧?私の化粧をしに新婚夫婦の初めての朝に突撃して、更には覗きまがいのことをしてたの??

 唖然とする私を余所に今度は玄関のベルが鳴る。慌ててドアを開けると、これまた私はびっくり仰天した。


 「キーロ?なんで?!」


 「マリィ様のご朝食を届けに参りましたのよ。マリィ様のお世話をしないと私、調子が出ませんわ。」


 玄関先で笑顔で佇むキーロが抱えているのは多分朝食が詰まったバスケットケース。ご丁寧にティーカップのセットまで別のバスケットに入れて持参している。


 「えーっと、ありがとう?」


 「まぁ、お礼なんていりませんわ。さあさあ、マリィ様とユーリルーチェ様は存分にいちゃついて下さいませ。私が全て準備いたしますわ。」


 キーロはぐいぐいと私をユーリの元へと押しやる。えーっと、この状況でいちゃつけと言われましても・・・

 そうこうするうちに今度はガティがつかつかと家に入ってきて顔を洗った私を捕まえると鏡の前に無理やり座らせてすぐに化粧を施し始める。


 「見て!新妻メイクよ。夫に愛される初々しい新妻をイメージしたわ。」


 得意気に言うガティの前には頰を薔薇色に染め、お口ぷるぷるで可愛らしい新妻の姿が鏡に映っている。おおっ、毎度毎度の事だけどガティのメイクは凄い!!


 「どうよ、ユーリルーチェ?」


 「可愛らしいな。でも、マリは化粧なしでも十分可愛いよ。」


 私を愛おしそうに見つめながら手を伸ばし髪の毛を耳にかけてくれたユーリを見て、ガティはくわっと目を見開いた。


 「キーロンボシュ、聞いたかしら?」


 「はい、確かに聞きました。甘すぎて蕩けそうですわ。」


 「長居は不粋(ぶすい)だわ。今日のところは退散するわよ!」


 きゃっきゃと騒ぎながらキーロとガティが去って行った後のダイニングテーブルの上には美しくセットされた朝食と温かいブレイクファーストティーに果物たち。一体何だったんだ?ともかく、朝食に罪は無いのでユーリと有難く頂く事にした。


 「あいつら明日も来るのかな。」


 「え?そんなには来ないでしょ。」


 「そうだよな。明日は朝も存分にマリを堪能する。」


 た、堪能って!赤くなった私を見てユーリはニヤッと口の端を持ち上げた。恥ずかしいけど新婚だし、ここはイチャイチャした方がいいのかな。私は照れ臭くてユーリにはにかんだ。

 しかし、私とユーリの計画は脆くも崩れ去る。毎朝のように突撃してくる2人に業を煮やしたユーリは遂に「俺達が起きだすまでは絶対に家に近づくな。敷地にも入るな。」と宣言し、ジュンと結婚したキーロと独身貴族のガティが我が家からスープの冷めない距離のご近所に引っ越して来るまであと少し。

 キーロが言うには「作りすぎちゃいましたの。」、ガティが言うには「たまたま通りかかったのよ。」だそうです。そんなこんなで、今日も私達の賑やかな一日が始まります。




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