27 予想しない再会
お昼ご飯を終えてユーリと町をぷらぷらしているとき、私はとある掲示を見て足を止めた。
「マリ、どうした?」
「私、ユーリと結婚したらお昼の間暇だし、仕事したいなと思って。これに申し込んでみようかな。」
私が指さしたのは洋服の販売スタッフ募集の求人広告。仕事の時間や内容、お給料の額が紙に書かれている。
ユーリはそれを聞いて血相を変えて猛反対してきた。私がそんなところで働くなんて、祝福を求める人達が押し寄せて店が大混乱するし、変な人が来たら危ないと。
大混乱するかなぁ、しちゃうかもな。最近すっかり慣れて気にならなくなったけど、やっぱり妖精は目立つのだ。いつも出歩く時はユーリが近くにいるから危ない目にあったことはないけど、知らない人に声をかけられることも多い。せっかく名案が浮かんだような気がしたのにと、私はがっかりした。
「マリ。何か欲しいものでもあるのか?」
ユーリは私が仕事したいと言いだしたのは何か欲しい物があるからお金が欲しいのだと思ったようだ。
「え?無いよ。私の来た世界では結婚した女の人も普通に働いている人が多かったから私も働きたいなって思っただけ。家の中にずっと居るのは性に合わないのよ。」
「仕事か。既婚女性でも働いている人はいるが、妖精の女性で仕事してるというのは聞いた事がないな。せいぜい夫の手伝い位だと思う。」
そっか。メーリンとバネットのお相手とかだと自分で会社をやっているから夫の手伝いと言うのも有りなんだ。ユーリの仕事で私が手伝えることって・・・
ユーリも同じ事を考えていたようで「第1中隊にショーギを教えるのはどうだ?」とか言いだした。それ、一時間位で教えることが無くなって失業ですよ。
もとの世界では私は時給のいい家庭教師と塾講師、さらに早朝にファミレスのウェイトレスのバイトを掛け持ちしていた。お金を稼がなくてはならないという理由が一番だが、働くことにより社会とのつながりが出来た気がして働くのが好きだったということもある。
一方、こっちの世界では元の日本よりは明らかに専業主婦率が高そうだ。私もユーリに余計な心配をかけてまで無理に仕事がしたいとは思わない。だから、この一件は折をみていいきっかけが有れば位に思っておくことにした。だか、そのチャンスは想像以上に早く訪れたのだった。
「マリィ様。国王陛下がお呼びです。」
ある日、キーロにそう言われた私は首をかしげた。国王陛下?エグザ様や第2王子に呼ばれることはよくあるけれど、国王陛下に呼ばれることはこれまで無かった。廊下を歩きながらも一体何だろうと考えたけれど、一切心当たりもない。そうこうするうちに、国王陛下のいる謁見室に到着してしまった。
「お姉ちゃん!」
部屋に入って一番最初に視界に飛び込んで来たのは仕立てのよい緑色の洋服を着た金色の髪の可愛い男の子。猫っ毛の金色の髪をふわふわとさせながら真っ直ぐに私に駆け寄ってきた。
「こら、リプレビュート!」
後ろにいた同じく金髪の長身の男性が慌てて男の子を止めようとしたので、私は笑って「構わない」と伝えた。男の子は金色の実った麦畑のような美しい髪の毛をしており、みんな灰色のここの国の人ではないことが一目瞭然だった。一方、父親と思われる金髪の男性は体からキラキラが出ていて、間違いなく妖精に見える。
「よく来てくれたな、ソメィヤマーリィ。」
国王陛下に声をかけられて私は慌てて佇まいを直した。国王陛下以外に知り合いのいないこの状況で一体何の用事なのだろう。
「そこにいるリプレビュートが、黒髪の妖精に祝福を授かったら不思議なことが起きたと言っていてな。その王宮内にいた黒髪の妖精とはソメイヤマーリィかと思うのだが、違うか?」
国王陛下の言葉に私は首をかしげる。確かに私は祝福を多くの人に贈った。でも、リプレビュートのような特徴的な子供に贈った記憶は一切無い。有れば絶対に憶えているはずだ。
私の考え込む様子を見た男の子は「僕だよ、僕。これならわかる?」と言ってクルンとでんぐり返しをした。その場所に居たのは・・・
「あっ!犬さん!!」
それは以前王宮内で迷子になったときに助けてくれた犬さんだった。この犬さんに祝福を贈ったのは確かに私だ。でも、変身した!男の子が犬に変身したよ!!想像だにしなかった出来事に私が唖然としていると、金髪の男性が補足してきた。
「私はリプレビュートの父のリクレアンカ。黄色爪の妖精です。リプレビュートは私とドルエド人のハーフですが、私の血が色濃く出ましてね。お察しの通り私とリプレビュートは人と獣の2つの姿を持っています。」
リクレアンカと名乗る金髪の男性は穏やかな様子で話し始めた。人と獣の2つの顔・・・獣人?もしくは狼男的な人ってこと!?凄い!お話の中だけの存在だと思っていたのに実際に会えるとは夢のようだ。
私の秘めたる感激など露知らず、リクレアンカは説明を続ける。
「通常、我々妖精の祝福は同じ妖精には効かないし、獣にも効かないのは知っていますね。リプレビュートは半分獣で見た目も妖精に近く、これまで一度も妖精の祝福は効かなかった。」
「あっ!」
そこまで言われて私は気づいた。普通は祝福が効かなかった子に私の祝福が効いたってことは、私の爪の色が本当は水色ではないとばれた?
脳裏にスエリ様の「きっと大騒ぎになる」という言葉が過ぎる。どうしよう・・・
「あの、私ってちょっとだけ祝福の力が強いみたいなんです。不思議ですよね-。」
私はとりあえずしらばっくれることにしてみた。きっと力の強さにも個人差はあるはず。リクレアンカは私の様子をみて眉を寄せた。
「ちょっとですか?実はとても不思議な事があって、これなんです。」
リクレアンカは手に握っていた小さな物を私に差し出した。
「あれ?これって・・・」
リクレアンカの手に乗っていたのは、私が初めてここに来たときに握っていたのと同じ赤い石だった。なんでこれがここに?




