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妖精  作者:    
24/36

24 会いたいのは私だけ?


 「マリ。なんでここにいる?」


 振り向いた視線の先にいるのは眉間に皺を寄せて明らかに機嫌が悪そうなユーリ。広場から訝しげな視線を投げかけてきている。ヤバイ、ついつい楽しくてユーリが来るって事を忘れてた!どうやってこの場を誤魔化せばいいのかと視線が泳いでしまう。


 「えっと、第2中隊の方達の訓練のお手伝い?」


 「なんで疑問形なんだよ。」


 「だって・・・」


 ユーリのきつい言い方に目頭が熱くなってくる。久しぶりに会ったのにこんな風に詰問されるなんて。私は会いたくて堪らなかったのに、ユーリは違うんだ。


 「ユーリルーチェ。今日はソメィヤマーリィは第2中隊に手伝いに来ているんだ。邪魔しないでもらおうか。」


 椅子に座っていたザックが立ち上がって私とユーリの間に立ち塞がった。なんだかとても険悪な雰囲気になってきていて、まわりの隊員達も注目しだす。

 私、なんでこんなところでこんなことしているんだろう。ユーリに会いたいなとは思ってたけど、ユーリを怒らせるつもりなんて無かった。今日だって訳がわからないうちにあれよあれよとことが進んで今ここに居るわけで・・・。これって私が悪いの??

 

 「帰る!行こう、キーロ。」


 なんだか泣きそうになっているところを見られるのがすごく悔しい。絶対に寂しがってる素振りなんて見せないんだから!

 ユーリのバカ!ユーリなんて、ユーリなんて、ユーリなんて、大っ嫌いだー!!!

 私はキーロの制止も聞かずに、踵を返して一目散に広場から走り去って行ったのだった。



***



 はい、ただ今絶賛迷子中であります。うろ覚えの廊下をひたすら走ること数分間、一体ここは何処なんだ?王宮内ではあるんだろうけど、全く知らない場所だ。誰かに聞こうにも誰もいないし、本当に困った。なんで誰もいないのよー!!

 とりあえず誰かが通りかかるのを待った方が良いかと思って開放型廊下の途中に設えてあったベンチに腰を落ち着かせた。辺りを見渡したけれどやっぱり誰もいない。こんなに人が居ないなんて本当に珍しい。


 「何やってるの?」


 一人でぽつんと座っていたら誰かから話し掛けられた気がして辺りを見渡したけれど、誰もいない。気のせいかな。


 「ねえ、なんでここに座ってるの?」


 やっぱり何か聞こえたし、誰か話し掛けてきてる。私はもう一度きょろきょろとあたりを見渡したけれど、誰もいない。おかしいなぁと首を傾げていると、足元につんつんと柔らかな刺激を感じる。見れば一匹の犬が座っていて、前脚で私の足をつんつんしていた。


 「やっと気づいたね。妖精さんが一人でこんなところで何しているの?お姉ちゃん妖精でしょ?」


 い、犬が喋った!!この世界には喋る犬が居るなんて今まで知らなかった。呆気にとられる私を見て首をかしげた犬はスクッとベンチに前足をかけるとそのままベンチに跳び乗ってこっちを見つめる。毛並みや顔つきからして、犬さんはまだ子供にみえた。


 「あの、迷子なの。」


 「迷子?じゃあ正門まで連れて行ってあげる。」


 犬さんはストンとベンチから降りると一度こっちを振り返った。ついて来いってことだよね。

 金に近い黄土色の毛並みが昔行った箱根仙石原の秋のススキ野原みたいで、毛並みの良いもふもふの尻尾をユラリユラリとゆっくりと振っている。うぅ、触りたい、もふりたい、頬ずりしたい。


 「ねぇ。」


 「はいっ!」


 やばっ、邪念まみれの目で見ていたことに気づかれた!?私は思わず声が裏返って出てしまい顔が引き攣る。犬さんはそんな私を訝しげに見たが、すぐに視線を逸らした。


 「あそこのお兄ちゃん、妖精さんを探しているんじゃない?焦ったような匂いがする。」


 犬さんの視線を追うと・・・え!?ユーリ!


 「マリ!」


 息をきらせたユーリは私に気付くと短距離ランナーもびっくりな猛スピードで走り寄ってきて、そのままふわっと包み込まれるとがっしりと抱きしめられた。


 「きつい言い方して済まなかった。マリが楽しそうに第2中隊の奴らと過ごしてて頭に血が上った。俺だってマリに会いたかったのに。本当にごめん。」


 ユーリは謝りながらもぎゅうっと私をだきしめた。体がユーリの温もりに包み込まれた。

 そんなの、私だって会いたかったよ。すっごくユーリに会いたかったんだから。なのにせっかく会えたと思ったらユーリは怒ってて。寂しかったんだから。毎日手紙一枚じゃ全然ユーリが足りないんだから!

 嗚咽交じりでユーリに訴える私を、ユーリは優しく抱きしめて居てくれた。うぅ、ユーリが、ユーリが、やっぱり大好きだ-!

 そのとき、私の視界の端に黄土色の物が蠢いているのが見えた。あら、私ってば犬さんの存在をすっかり忘れてた!


 「あっ、もう大丈夫だから、ありがとう犬さん。」


 私は親切な犬さんの存在を思い出して、すぐに頭を下げて御礼をする。とっても可愛いからついでにその頭を撫でようとしたら、触れそうで触れない距離でユーリに止められた。


 「マリ?病気がうつったり咬まれたらどうするんだ。触るな。」


 「え?この子は咬まないから大丈夫!えーっと、お前の願いが叶いますように。」


 金色のキラキラが犬さんを包み込む。よしよし、これでこの犬さんにも恩返しが出来たってもんだわ。犬さんはキラキラに包まれる自分の姿を不思議そうに見てその場でくるくる回っていたが、暫くすると私の方を一瞥して先ほどいた方向へと戻っていった。


 その場には私とユーリの2人になる。そっとユーリを見上げるとユーリはじっとこっちを見つめていた。両肩に手がおかれ、だんだんとその距離が近づいてきてコツンと額同士が合わさる。そしていったん離れてもう一度近づいてくる。私はキスをされるんだと思って目を閉じてその瞬間を待った。


 「うきゃあっ!」


 「ん、可愛い声♪」


 なに?なんだ今の??耳囓られた。キスされると思って期待してたのに、ユーリに耳をはむって甘噛みされた!

 顔を真っ赤にして狼狽える私に対してユーリはやけにご機嫌になっている。やっぱりドSでキスを焦らして私の反応をおもしろがってるのか!?

 訳のわからないまま赤くなっている私はご機嫌なユーリにしっかりと恋人つなぎで手をひかれ、部屋に戻っていったのだった。部屋に戻るとまだキーロは戻っておらず、私はユーリにソファに座らされた。ユーリを見上げると灰色の瞳と視線が絡み合った。


 「ユーリ、私寂しかったんだから。」


 「うん、ごめん。いつも仕事で夜遅いから。」


 「ユーリはいつも私にだけ言い方がきつくて優しくない。」


 「これからは優しくするよ。」


 「全然可愛いって言ってくれないし。」


 「マリのことはいつも可愛いと思ってるよ。」


 「え!?」


 予想外のユーリの言葉に私は目が点になった。いつも可愛い?メーリンには簡単に可愛いっ言うくせに、私には全然言ってくれないのに?ユーリは私の考えていることに気づいたようで気まずそうに顔を逸らせた。


 「本当だ。マリの事はいつも可愛いと思ってる。あと、今度からは仕事があまり遅くなってない日は会いに来てもいいか?」


 ユーリの言葉が心に浸みてきてじわじわと顔が熱く火照ってくる。可愛いって。ユーリが私をいつも可愛いって思ってるだって!


 「うん、嬉しい!来て来て!待ってる!」


 ユーリに可愛いって言って貰えて感激した上に平日も会えると目を輝かせた私に、ユーリは優しく目を細めた。そして、もう一度額を合わせてからやはりキスにはいかずに耳を甘噛みする。またもや予想外の甘噛みに「ひゃん!」とおかしな声をあげた私を見て満足げに仕事へと去って行ったのだった。

 これってこちらの世界で流行ってる恋人間のプレーかなにかなのだろうか??うーむ、謎だ・・・

 

 


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