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妖精  作者:    
23/36

23 放置プレーされてます


 薄墨の 

 泣き出しそうな

 曇り空

 私の心も

 灰色模様 作:染谷茉莉 心の一句


 はっ、いかんいかん。憂鬱(ゆううつ)すぎて思わず下手くそな一句を詠んでしまった。いつの間にか夜の帳が降り、部屋から漏れ出る明かりに照らされる足元の石畳にぽつりぽつりと水玉模様ができ始める。私は慌ててベランダから部屋に駆け込んだ。


 あの日ユーリと想いが通じ合い幸せいっぱいの私だったが、早くも黄色信号が点ってる。ユーリが忙しくてなかなか会えないのだ。中隊の主な業務は小隊が受けもたない特命任務、それに加えて副隊長は配下の3つの小隊の業務分担やシフト決めをすること。だから、小隊の訓練場に行ってもユーリは居ないし、ルビン舎にも空いてる時間に行っているようでこちらからは時間が読めないし・・・。もう1週間も会ってない。


 うわーん、さみしいよー!!


 毎日きていた手紙は来るけど、もとの世界のSNSとは違ってせいぜい一日一通。正直言って、付き合って1週間目ってアホみたいにメールやラインのやりとりをしてる時期だと思うの。一日一通じゃ全然足りない!

 視線の先に、なんだか浮き足立っているキーロの姿が見えた。これはきっと今晩ジュンとデートなんだわ。くうぅー、おのれリア充め!!

 ジト目で見る無表情の私に気付いてキーロは困ったようにオロオロしだした。


 「あの、マリィ様?私、何か不手際を致しましたでしょうか?」


 キーロは自分が何か不手際をして私が機嫌を損ねたのだと思ったようで、不安そうにこちらを覗う。大好きなキーロにこんなことで余計な心配かけさせるなんて、なんて情けない。情けななさ過ぎて泣けてくる。最低だ。私はじわりと目に涙が貯まってくるのを感じた。それを見たキーロがギョッとする。


 「うぅ・・・」


 「マリィ様!どうなされたのですか!?」


 「う、ぅ、うぅ。うわーん、寂しいよー。ユーリが、ユーリがぁ・・・」


 突如泣き出した私にキーロは呆気にとられていた。それでもお世話係の立場上、何とかしようと必死に宥めてくる。キーロからすればとんだとばっちりだよね。


 「マリィ様はユーリルーチェ副隊長に会えなくてさびしいのですね。私、今晩ジュンに良い案はないか相談して参りますわ。お任せ下さい。マリィ様にさびしい思いなどさせません!」


 私の話を一通り聞いたキーロは任せろと言った具合に胸に手を当てて自信たっぷりに頷いた。

 キーロ、良いんだよ。ユーリは前々から私に冷たかったから、きっと『釣った魚に餌はやらない作戦』で私を悲しませて楽しんでるんだ。きっとあの人、真正ドSなんだわ。もしかしたら『好き』って言うのも盛大なドッキリだったのかも。

 そんなことをブツブツと言う私に、キーロはもう一度『お任せ下さいませ!』と言って部屋を出て行った。一人になった部屋には洗い立てのバスタオルと寝間着が置かれ、シーンと静まり返る。なんか、恋人が居ないときより恋人ができた後の方がさみしいってどういうことなのよ。その晩、私は涙で枕を濡らしながら眠りについたのだった。


 翌日、瞼を腫らした私はまだ朝食をとっている最中に現れたガティにより特別に痛ーいマッサージを受けて小顔矯正され、あれよあれよという間に美しく着飾らされて妖艶なメイクを施された。


 「ガティ、キーロ。これは一体?」


 「いいから、いいから。アタシが化粧したからには今のマリィは最高に綺麗なんだから。しっかり嫉妬させちゃって。」


 ガティはうふふっと意味ありげにウインクするとニマニマしながら部屋を出て行った。そして、キーロはにこにこしながらどこかへ案内していく。普段は通らない通路をクネクネと曲がって、全く知らない景色が広がる。

 廊下の途中には二人の警備兵がいて、キーロはその警備兵に何かの紙を渡していた。警備兵2人が私をチラリと見て頬を染めて慌てて目を逸らす。私はとりあえずにっこりと笑って会釈しておいた。

 さらに廊下を進むと最終的に辿り着いた場所は中央に石床造りの中庭のような四角い広場が有り、そこに向かって辺を合わせるように同じ様な3つの大部屋があった。残りの一辺は私が出てきた廊下と繋がっていて、廊下以外の部分は石壁に覆われていた。


 「ここはどこ?」


 「王都警備隊の中隊部隊の詰所ですわ。あの3つの部屋がそれぞれ第1中隊、第2中隊、第3中隊の部屋になっております。」


 王都警備隊の中隊ってことは・・・。ちょっと考えて私は自分でもわかるくらいにパッと表情を明るくした。中隊ってことはユーリが居るところだ。ユーリに会える!

 ユーリを探してきょろきょろとしていると、まわりの人達もジロジロと遠巻きに自分に注目しているのに気付き、急激に頭が冷えてくる。

 ユーリはいつも私に冷たかった。これまでのユーリの態度を考えると、今日この場で私に会っても「何しにきたんだ。」とか、「帰れ。」とか、「仕事の邪魔だ。」って言われる可能性が高い。出来たばかりの恋人に放置プレーされてすっかりガラスのハートになったところにそんなことを言われた暁には粉々に砕けてしまう!

 そう思ったら急に落ち着かなくなってきた。ヤバイ、再起不能に砕かれる前に戻らないと!


 「キーロ、戻ろう!」


 「まぁ、何故ですの?せっかく見学に来ましたのに。お昼まではまだ時間がありますから。」


 キーロは呑気に笑っているがそんな場合じゃないのよ。私のガラスのハートが木っ端微塵になる危機なのよ!!


 「おや、来たか。」


 焦りまくる私の後ろからしたのは、想像していたものとは違う声だった。でも、ごく最近にどこかで聞いたことが有る声。恐る恐る振り返った私が見たのは想像していない人物だった。


 「ザック!なんでここに!?」


 「なんでと言われても、俺の職場はここなんだが。」


 そう言ってこちらを見て苦笑するのは、最後のパーティーで無理やり捕まえて沢山お話したザックだった。


 「こっちに来てくれ。」


 ザックは私にそう言うと広場から繋がる部屋の一つに入っていった。その部屋は間口が大きく開いていてオープンテラスのようになっていて、なかなか開放的だと思う。部屋にはザック以外に何人かの男の人と女の人が一人いた。女の人も同じ黒の制服を着ているから女性兵士なのかな。なんか男性以上に格好よく見えるのはなぜだろう。


 「こいつらが第2中隊直属の隊員だ。隊長、副隊長の俺と隊員の全部で20人な。他に下部組織に第4、第5、第6小隊の3隊計150名の部下がいる。」


 「はぁ」


 ザックは次々にメンバー紹介をしてくるけど、私は頭に「???」マークが沢山浮かんでいる。何故私は朝早くからガティの襲撃を受け、キーロに連れ出され、最終的にザックに第2中隊の紹介をされているのか意味がわからない。ザックは一通り説明を終えると空いている席に着席した。


 「では早速始めよう。ソメィヤマーリィ、教えてくれ。」


 「教えるって何を?」


 「殿下に教えたとか言う『ショーギ』とか言う兵法の訓練だ。」


 「は?将棋??」


 確かに将棋は殿下に教えた。トランプをいたく気に入った殿下とエグザ様がもっと元の世界のゲームを教えろと言うので、トランプの他にオセロや五目並べ、将棋などを教えたのだ。でも、兵法の訓練?私が教えたのは普通の将棋だけど?しかも、私はプロ棋士でなければ将棋通でもなく、最低限のルールしか知らないど素人だ。


 「私は本当に最低限のルールしか知らないので、到底『兵法』を教えられるとは思えないけど?」


 「それでいい。ルールを教えて貰えれば兵法は自分達で特訓する。」


 ザックはそう言うけど、本当にいいのか!?

 一つ確信したのは、ドルエド王国はとっても平和な国なんだろうなってこと。だって、将棋で兵法の訓練?それって普通なのか??軍隊マニアじゃないからイマイチわからない。でも、ザックは真面目に言ってそうだからとりあえずルールは教えることにする。


 「ところで将棋盤と駒はどこ?」


 「殿下のものを見てまねて作ってみたんだが、これで良いか?」


 ザックが取り出して見せてきたのは手作りとは思えない程の出来栄えの将棋盤。「王将」の代わりに「国王」など、この国仕様に名前が書かれている。


 「十分だよ。まずは駒の1番基本の動きから教えるね。この1番多い『歩兵』は・・・」


 優秀な人が揃っているのか第2中隊の人達は呑み込みが早く、一通りルール説明をしたら早速一戦を交えていた。そして、一戦を交える度に勝因や敗因はなんだったのか、また、どうすればその時に負けを回避できたのかを全員で大真面目に話し合っていた。

 兵法の訓練が本当にこれでいいのだろうかとかなり不安だったけど、やっているのを見ているとなんだかちゃんとした訓練っぽいじゃないか!

 そんなこんなで結構第2中隊の皆様と馴染んで楽しく時間を潰していると、背後から「マリ?」と不機嫌マックスの声が聞こえてきて私は背筋を凍らせた。

 この声は・・・嫌な予感がびんびんするー!!



 

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